ロードバイクの魅力は多岐にわたるが、その真髄の一つは「ツーリング」にあると言えるだろう。
ペダルを漕ぎ、自らの力だけでまだ見ぬ景色へと進んでいく。
その過程で出会う風景、風の匂い、そしてゴールした時の圧倒的な達成感は、何物にも代えがたい経験である。
筆者も2015年にロードバイクを始め、今では600kmブルベを完走するほどロングライドに魅了されている。
この記事では、そんな筆者の経験に基づき、ロードバイクツーリングを成功させるための具体的なノウハウを、初心者にも分かりやすく解説していく。
この記事でわかること
- ロードバイクツーリングの真の魅力と始め方
- 失敗しない計画の立て方とルート設定のコツ
- 筆者が厳選する必須&推奨の持ち物リスト
- よくあるトラブルとその具体的な対処法
そもそもロードバイクツーリングの魅力とは?

ロードバイクツーリングの魅力は、一言で言えば「自由と達成感」である。
決まったコースを走るレースとは異なり、どこへ向かい、どこで休み、何を見るか、そのすべてを自分で決められる。
この自由さが、日常から解放された特別な時間を作り出すのだ。
自分のペースで進む、自由気ままな旅
ツーリングには、決められた速度もなければ、タイムを競う相手もいない。
気になる路地裏があれば寄り道をしてもいいし、景色の良い場所で心ゆくまで休憩してもいい。
公共交通機関の時間を気にする必要もなく、ただペダルを漕ぐだけで、自分だけの旅が紡がれていく。
この自由こそが、ロードバイクツーリングの根源的な魅力なのだ。
五感で感じる景色との一体感
自動車の窓越しに流れる景色と、自らの力で進みながら見る景色は、全くの別物である。
坂を上る息遣い、風を切る音、木々の香り、肌で感じる気温の変化。
ロードバイクツーリングは、全身の五感を使って風景と一体になる体験だ。
車では一瞬で通り過ぎてしまうような何気ない田舎道も、ロードバイクで走れば特別な思い出に変わる。
困難を乗り越えた先の圧倒的な達成感
ロードバイクツーリングは、常に快適なわけではない。
突然の向かい風、終わりの見えない坂道、予期せぬメカトラブルなど、様々な困難が待ち受けている。
しかし、それらを乗り越えて目的地にたどり着いた時の達成感は、筆舌に尽くしがたいものがある。
筆者が初めて100kmを走った日のこと、200km、400km、そして600kmのブルベを完走した時の感動は、今でも鮮明に覚えている。
この達成感こそが、我々サイクリストを次の旅へと駆り立てる原動力なのだ。
失敗しないロードバイクツーリングの計画と準備

結論から言えば、ツーリングの成否は計画と準備で9割が決まる。
行き当たりばったりの旅も面白いが、特に初心者のうちは、入念な準備が安全と楽しさを担保してくれる。
逆に言えば、準備さえしっかりすれば、ツーリングのハードルは決して高くないのだ。
STEP1:目的地とルートを入念に決める
まずは「どこへ行きたいか」「どのくらいの距離を走りたいか」を明確にすることから始める。
- 距離の設定:
- 初心者: まずは50km~80km程度を目安にするのが良いだろう。無理のない距離で「走り切れた」という成功体験を積むことが重要だ。
- 中級者: 100km以上を目標にしてみよう。いわゆる「センチュリーライド」は、多くのサイクリストにとって一つの節目となる。
- ルート作成ツールの活用: 「Googleマップ」の自転車ルート検索も便利だが、「Strava」や「Ride with GPS」といったサイクリスト向けの専門ツールを使うのがおすすめである。 これらのツールでは、距離だけでなく獲得標高(登りの総量)や路面の状況なども事前に確認できる。
- ルート設定の重要ポイント:
- 獲得標高: 同じ距離でも、山岳コースと平坦コースでは難易度が天と地ほど違う。初心者はまず平坦基調のルートを選ぶべきだ(目安として獲得標高1000m以下など)。
- 補給地点: コンビニや自販機、道の駅などがルート上に適切にあるかを確認することは死活問題となる。
- 交通量と路面: できるだけ交通量の少ない、路面がきれいな道を選ぶのが安全で快適だ。
筆者も初心者の頃、地図上の距離だけを見て山岳ルートを選んでしまい、補給ポイントが全くない道でハンガーノック(エネルギー切れ)寸前になった苦い経験がある。
ルートは必ず、標高と補給地点を含めて検討することが肝要だ。
STEP2:季節と天候に合わせた服装を選ぶ
服装選びの基本は「レイヤリング(重ね着)」である。
走り始めは肌寒くても、運動強度が高まれば体は熱くなる。
また、山の上と下では気温が大きく異なる。
着脱しやすいウェアを重ね着することで、あらゆる状況に対応できるようにしておくことが重要だ。
季節 | 上半身 | 下半身 | その他 |
---|---|---|---|
春・秋 | ベースレイヤー+サイクルジャージ+ウィンドブレーカー | ビブショーツ(+レッグウォーマー) | 指切りグローブ、アームウォーマー |
夏 | ベースレイヤー+半袖サイクルジャージ | ビブショーツ | 指切りグローブ、サングラス |
冬 | 長袖ベースレイヤー+長袖ジャージ+防風ジャケット | 裏起毛タイツ | フルフィンガーグローブ、ネックウォーマー、シューズカバー |
特にウィンドブレーカーやレインウェアは、天候の急変に対応するために、夏場でも携帯しておくと安心だ。
山間部では天気が変わりやすく、「備えあれば憂いなし」である。
失敗しないロードバイクのウェア・服装選びについての詳細記事は下記。
STEP3:出発前に行う自転車のメンテナンス
ツーリング当日の朝、慌てて準備することがないよう、前日までに自転車のチェックを済ませておく。
最低限、以下の項目は必ず自分の目で確認する習慣をつけよう。
- ブレーキ: レバーを握り、前後輪ともにしっかりと作動するか。
- タイヤ: 適正な空気圧か。傷や摩耗、異物が刺さっていないか。⇒関連記事:適切な空気圧
- チェーン: 汚れていないか。注油はされているか。
- 変速: 全てのギアにスムーズに変速するか。
- 各部ボルト: ハンドルやサドル、ホイールなどの固定ボルトに緩みはないか。
これらの日常的なチェックに加えて、数ヶ月に一度はプロのいる専門店で点検してもらうことを強く推奨する。
安全は何よりも優先されるべきだ。
これだけは揃えたい!ロードバイクツーリングの持ち物リスト

持ち物は、多すぎれば重荷になり、少なすぎればトラブルに対応できない。
ここでは「必須」と「あると便利」に分けてリストアップする。
自分の走る距離やルートに合わせて取捨選択すると良い。
絶対に欠かせない必須アイテム【チェックリスト】
これらは安全と最低限の走行を維持するために、たとえ近距離であっても必ず携帯すべきものだ。
- ヘルメット
- パンク修理キット(予備チューブ、タイヤレバー、携帯ポンプ/CO2ボンベ)
- 携帯工具(マルチツール)
- ライト(フロント・リア ※トンネルや夕暮れ時に必須)
- ボトルとドリンク
- 補給食(エナジージェル、羊羹、飴など)
- スマートフォン(地図や連絡手段として)
- お金(電子マネーが使えない場合に備え、現金も)
- 健康保険証のコピー
あると快適性が格段に上がる便利アイテム
これらは必須ではないが、持っているとツーリングの質を大きく向上させてくれる。
- サイクルコンピューター(速度、距離、ルート案内など)
- モバイルバッテリー
- 輪行袋(トラブル時のエスケープや、行動範囲の拡大に)
- ファーストエイドキット(絆創膏、消毒液など)
- 日焼け止め
- ウェットティッシュ
- ジップロック(スマホや貴重品の防水に)
- 着替え(特に夏場の休憩時に)
筆者が語る「持っててよかった」意外なアイテム
ブルベのような長距離を走っていると、想定外の事態が起こる。
そんな中で「これがあって助かった」というアイテムがいくつかある。
- 結束バンド: ライトのマウントが破損した時や、ケーブル類をまとめる際に非常に役立つ。軽くて小さいので数本忍ばせておくと良い。
- 使い捨てのビニール手袋: パンク修理やチェーンが外れた際に、手を汚さずに作業できる。
- 小分けのチェーンオイル: 雨天走行後など、チェーンの動きが渋くなった時にあるとないとでは大違いだ。
これらは小さなものだが、いざという時の精神的な余裕を生み出してくれる「お守り」のような存在である。
ツーリングに必要な持ち物・装備
失敗しないためのツーリングの持ち物や装備については、下記の記事で詳しく解説している。
忘れ物が一番怖いので、必ずチェックリストを活用しよう。
ロードバイクツーリング中のよくあるトラブルと対処法

結論として、トラブルは「いつか必ず起こるもの」と覚悟しておくべきだ。
重要なのは、パニックにならず、冷静に対処するための知識と準備をしておくことである。
最も多いトラブル「パンク」の対処法
サイクリストにとってパンクは宿命とも言える。
パンク修理(チューブ交換)の経験がないままツーリングに出るのは、無謀と言わざるを得ない。
必ず、事前に自宅などで数回練習しておくことが重要だ。
チューブ交換の簡単な手順
- 安全な場所に自転車を移動させる。
- ブレーキを解放し、ホイールをフレームから外す。
- タイヤレバーを使って、タイヤの片側のビードをリムから外す。
- 古いチューブを取り出す。
- タイヤの内側に異物(ガラス片など)が残っていないか、指でなぞって確認する。
- 新しいチューブに少しだけ空気を入れ、タイヤの中に入れる。
- タイヤのビードをリムにはめ込む(この時、チューブを噛まないように注意)。
- 携帯ポンプで適正空気圧まで空気を入れる。
- ホイールをフレームに戻し、ブレーキを元に戻す。
文章で読むと複雑に感じるかもしれないが、一度覚えてしまえば15分程度で完了する作業だ。
YouTubeなどで動画を見ながら練習するのが分かりやすいだろう。
体の不調「ハンガーノック」と「足攣り」
メカトラブル以上に深刻なのが、自身の体のトラブルである。
- ハンガーノック:
- 症状: 体内のエネルギー(グリコーゲン)が枯渇し、急激な倦怠感、めまい、思考力の低下などに陥る状態。一度なると、回復には時間がかかる。
- 予防と対策: 「お腹が空いた」と感じる前に、こまめに補給食を摂ることが絶対の鉄則だ。1時間に1回は何かを口にするくらいのペースが良い。もし兆候を感じたら、すぐに休憩し、吸収の早いジェルや糖分の多いジュースなどを摂取する。
- 足攣り:
- 原因: 筋肉の疲労、水分・ミネラル(特にマグネシウム、カリウム)不足が主な原因。
- 予防と対策: こまめな水分補給(スポーツドリンクが望ましい)と、休憩時に軽くストレッチを行う。攣ってしまった場合は、ゆっくりと筋肉を伸ばし、可能であればミネラル補給ができるサプリメントなどを摂取する。
筆者もロングライド中にハンガーノックで力が入らなくなり、コンビニの駐車場で30分ほど動けなくなったことがある。 それ以来、「走りながら食べる」ことを徹底している。
メカニカルトラブル「チェーン外れ」など
走行中にチェーンが外れることも珍しくない。 特にフロントのギアを変速した際に起こりやすい。
これは慌てずに手で元に戻せばよい。
もし手に負えないような重大なトラブルが発生した場合は、無理に自力で解決しようとせず、近くの自転車店を探したり、家族や友人に救援を要請(輪行袋があれば電車も可)したりする勇気も必要だ。
ロードバイクツーリングに関するQ&A

ここでは、多くの人が抱くであろう疑問に答えていく。
Q1. 初心者におすすめの距離は?
A1. 前述の通り、まずは50km前後から始めるのが良いだろう。
平坦な河川敷のサイクリングロードなどは、信号も少なく走りやすいのでおすすめだ。
重要なのは距離ではなく、「楽しく走り切れること」である。
徐々に自信をつけて、100km、150kmと目標をステップアップさせていくのが長続きの秘訣だ。
Q2. 一人でも安全に楽しめますか?
A2. もちろん、一人でも十分に楽しめる。
ソロツーリングは、自分のペースを完全に守れるという大きなメリットがある。
ただし、トラブルが起きた際に頼れるのは自分だけだ。
そのため、グループでの走行以上に、パンク修理の技術や事前のルート確認、家族への計画共有(行き先、帰宅予定時間など)が重要になる。
Q3. ツーリング中の食事はどうすればいいですか?
A3. 基本はコンビニなどで手軽に買える補給食(おにぎり、パン、ジェルなど)でこまめにエネルギーを補給することだ。
しかし、旅の目的地でご当地のグルメを味わうのも、ツーリングの大きな醍醐味である。
筆者は、ルート上にある評判のパン屋や食堂に立ち寄るのを楽しみにしている。
ただし、一度に満腹まで食べると、その後の走行が辛くなることがあるので、量は控えめにするのが賢明だ。
Q4. 輪行のメリット・デメリットは?
A4. 輪行とは、自転車を専用の袋(輪行袋)に入れて、公共交通機関で運ぶことである。
メリット:
- 自宅から遠く離れた場所をスタート地点にでき、行動範囲が劇的に広がる。
- 片道だけ自走し、帰りは電車という計画も可能。
- 深刻なトラブルや体調不良時のエスケープ手段になる。
デメリット:
- 輪行袋の分だけ荷物が増える。
- 自転車の分解・組み立て(パッキング)に慣れが必要。
- 混雑した電車内では周囲への配慮が求められる。
輪行をマスターすれば、ツーリングの可能性は無限に広がる。
まずは近場の駅まで練習してみるのが良いだろう。
まとめ:安全に楽しく、最高のロードバイクツーリング体験を!

ロードバイクツーリングの成功の鍵は、結局のところ「周到な準備」と「トラブルを恐れない心構え」に尽きる。
この記事で紹介した計画の立て方、装備、トラブル対処法は、そのための基礎となる知識だ。
これらを参考に、まずは自分なりのツーリングプランを立ててみてほしい。
ペダルを漕いだ先には、きっとあなただけの絶景と、忘れられない達成感が待っている。