一時期ブームとなっていたグラベルロード。
ロードバイクの軽快さとマウンテンバイクの走破性を両立した「夢のバイク」として、多くのサイクリストが注目している。
しかし、その一方で「グラベルロードは本当に必要なのか?」という冷静な声も聞こえてくる。
購入した結果、あなたのサイクリングライフにとって「中途半端な一台」になってしまうとしたら、それはあまりにも悲しい。
本記事では、「グラベルロードはいらないのか」という疑問に対し、その結論を徹底的に深掘りしていく。
グラベルロードのメリット・デメリットを客観的に分析し、ロードバイクやマウンテンバイクとの比較を通じて、あなたが後悔しないための一台を見つけよう。
この記事でわかること
- グラベルロードが「いらない」と言われる具体的な理由
- グラベルロードの真価が発揮される瞬間と、本当に必要な人の特徴
- ロードバイクやマウンテンバイクとの明確な違い
- あなたの使い方に最適な一台を見つけるためのチェックリスト
そもそもグラベルロードとは何か?

「いらない」と断じる前に、まずはグラベルロードがどのような自転車なのかを再確認しておこう。
グラベルロードとは、その名の通り「グラベル(砂利道)」を走ることを主眼に置いて設計された自転車である。
ロードバイク譲りのドロップハンドルによる多様なポジションと高速巡航性能、そしてマウンテンバイクのような太いタイヤを装着できる走破性を兼ね備えているのが最大の特徴だ。
グラベルロードの特徴
- ジオメトリ(設計思想): ロードバイクよりもホイールベース(前輪と後輪の距離)が長く、ヘッドアングル(フロントフォークの角度)が寝ていることが多い。これにより、直進安定性が高まり、オフロードでもふらつきにくい設計となっている。
- タイヤクリアランス: ロードバイクが25c~28c(太さの単位)が主流なのに対し、グラベルロードは40c前後の太いタイヤを装着できる広いクリアランスを持つ。
- ブレーキ: 現在ではほぼ全てのモデルがディスクブレーキを採用している。泥や水の影響を受けにくく、悪路でも安定した制動力を発揮するためだ。
- 拡張性: キャリア(荷台)やフェンダー(泥除け)、多くのボトルケージを取り付けるためのダボ穴(ネジ穴)がフレームの各所に設けられている。これにより、バイクパッキングや長距離ツーリングへの対応力が高まっている。
一言で言えば、「舗装路から未舗装路まで、道を選ばずに快適に走行できることが特徴の自転車」である。
このコンセプト自体は非常に魅力的であり、多くのサイクリスト、特にこれからスポーツ自転車という趣味を始めようと思う人にとっては惹かれるのも当然と言えるだろう。
「グラベルロードはいらない」と言われる5つの本質的な理由

その魅力的なコンセプトとは裏腹に、なぜ「いらない」という声が上がるのか。
それは、多くのユーザーの実際の使用環境と、グラベルロードという機材の特性との間に存在する「ギャップ」に起因する。
理由1:すべてが「中途半端」であるという現実

グラベルロードは「ロードバイクとMTBのいいとこ取り」と表現されるが、これは裏を返せば「どちらの性能にも特化していない」ということでもある。
つまり、普段走るルートによっては中途半端な存在になりかねないのだ。
舗装路での走行性能
同じ価格帯のロードバイクと比較した場合、舗装路でのスピードは明らかに劣る。
太いタイヤによる転がり抵抗の大きさ、アップライトな乗車姿勢による空気抵抗の増加、そして頑丈なフレーム設計による重量増がその主な要因だ。
仲間とのロードサイクリングで平坦路を高速巡航するような場面では、ロードバイクに対してハンデを背負うことになるだろう。
「ロードバイクの軽快さ」を期待して乗ると、そのモッサリとした乗り味にがっかりするかもしれない。
本格的なオフロードでの走破性
一方、木の根が張り出し、大きな岩が転がるような本格的なシングルトラック(登山道のような細い道)では、サスペンションを備えたマウンテンバイクに遠く及ばない。
路面からの強烈な突き上げを吸収できず、腕や腰への負担は大きい。
また、タイヤのグリップ力やバイクコントロールのしやすさも、専用設計のマウンテンバイクには到底かなわない。
結局のところ、舗装路ではロードバイクに、本格的なオフロードではマウンテンバイクに劣る。
この「中途半端さ」こそが、「グラベルロードはいらない」と言われる最大の理由なのである。
理由2:日本の道路事情と「走る場所がない」問題

「グラベルロードを買ったからには、砂利道を走りたい!」と思うのは自然なことだ。
しかし、ここで日本の道路事情という現実が立ちはだかる。
日本の国土の多くは山林だが、アクセスしやすい里山や河川敷の未舗装路は、管理上の問題で自転車の乗り入れが禁止されているケースが少なくない。
また、気持ちよく走れるような長いグラベルロード(林道など)は、都市部からアクセスしにくい山間部に集中している。
「いつかグラベルを走るかも」という漠然とした理由で購入したものの、結局は近所の舗装路を走るだけ。
週末のサイクリングも、いつものサイクリングロード。これではグラベルロードの性能は完全に宝の持ち腐れだ。
通勤や通学、フィットネス目的のサイクリングがメインであるならば、そのフィールドの99%は舗装路のはずだ。その環境において、あえて重く、巡航性能で劣るグラベルロードを選ぶ積極的な理由はない。
理由3:エンデュランスロードバイクで「ほぼ代用可能」である

近年のロードバイクの進化、特に「エンデュランスロードバイク」の進化は目覚ましい。
エンデュランスロードとは、レース向けのピュアレーサーよりも快適性を重視したロードバイクのことで、乗り心地の良さや安定性の高いジオメトリが特徴だ。
そして重要なのが、このエンデュランスロードの多くが、タイヤクリアランスを大幅に拡大している点である。
最新のエンデュランスロードモデルでは、32cや35cといった太さのタイヤを装着できるものが増えている。
考えてみてほしい。あなたが「グラベル」としてイメージする道は、どのような道だろうか?
おそらく、少し荒れたアスファルト、路肩の砂利、固く締まった河川敷のダート、といったレベルではないだろうか。
そうした「ライトなグラベル」であれば、32c程度のスリックタイヤやセミスリックタイヤを履かせたエンデュランスロードで全く問題なく、むしろ軽快に走れてしまうのだ。
わざわざグラベルロードという専用機材を投入しなくても、手持ちの(あるいはこれから買う)エンデュランスロードのタイヤを交換するだけで、太めのタイヤ装着可能になる。
この事実が、グラベルロードの必要性を相対的に低下させているのである。
理由4:同スペックのロードバイクより「価格が高い」傾向

一般的に、同程度のコンポーネント(変速機やブレーキなどの部品群)を搭載したモデルで比較した場合、グラベルロードはロードバイクよりも高価な傾向にある。
これにはいくつかの理由がある。
まず、現在主流の油圧ディスクブレーキシステムが、従来のリムブレーキシステムよりも高コストであること。
次に、オフロード走行に耐えうる頑丈なフレームやホイール、太いタイヤなどもコストを押し上げる要因となる。
例えば、予算20万円で自転車を探しているとしよう。ロードバイクであれば、シマノの「105」コンポーネントを搭載したカーボンフレームのモデルも視野に入ってくるかもしれない。しかし、同じ予算でグラベルロードを探すと、アルミフレームに一つ下のグレードのコンポーネント、という構成になることが多い。
限られた予算の中で最大限の走行性能を求めるのであれば、同じ金額でより軽量で、よりグレードの高いコンポーネントを備えたロードバイクが手に入る。
このコストパフォーマンスの差も、グラベルロードを敬遠する一因となっている。
理由5:オフロード走行に伴う「メンテナンスの煩雑さ」

グラベルロードで未舗装路を走れば、当然バイクは泥や砂埃まみれになる。
特に、雨上がりの林道などを走った日には、自転車は見るも無残な姿になるだろう。
きれい好きなサイクリストにとって、この掃除の手間はかなりのストレスだ。
特に駆動系(チェーンやスプロケット)に砂や泥が噛み込むと、パーツの摩耗を早める原因にもなるため、念入りな洗浄と注油が不可欠となる。
また、油圧ディスクブレーキのメンテナンスは、リムブレーキに比べて専門的な知識や工具が必要になる場面が多い。
エア抜き(ブリーディング)などの作業は、初心者にはハードルが高いだろう。
舗装路だけを走るロードバイクに比べ、オフロード走行を前提とするグラベルロードは、どうしてもメンテナンスの頻度と手間が増える。
この点を億劫に感じるのであれば、安易に手を出すべきではない。
それでもグラベルロードが輝く瞬間(メリットとおすすめな人)

ここまで「いらない」理由を並べてきたが、もちろんグラベルロードが誰にとっても不要なわけではない。
その特性が、特定の目的やスタイルを持つサイクリストにとっては、他のどの自転車にも代えがたい「最高の相棒」となり得るのだ。
グラベルロードの明確なメリット
圧倒的な走破性と快適性
舗装路のひび割れ、段差、工事中の荒れた路面、マンホール。
ロードバイクでは気を使うような場面でも、グラベルロードなら何事もなかったかのように突き進むことができる。
この精神的な余裕と快適性は絶大だ。
パンクのリスクが格段に低いことも、路面状態を気にせず走る上での大きな安心材料となる。
冒険心を掻き立てる汎用性
サイクリング中にふと現れる脇道。
「この先に何があるんだろう?」と思っても、ロードバイクではためらってしまうような未舗装の道へも、グラベルロードなら臆することなく入っていける。
そんな未舗装路さえあれば、行動範囲が劇的に広がり、日常のライドが「冒険」に変わる。
これこそがグラベルロード最大の魅力である。
バイクパッキングとの最高の相性
フレーム各所に設けられたダボ穴は、バイクパッキングスタイルのツーリングのためにあると言っても過言ではない。
キャリアや大型のサドルバッグ、フレームバッグなどをスマートに装着し、キャンプ道具一式を積んで旅に出る。
そんな自由な旅のスタイルに、グラベルロードは完璧にマッチする。
グラベルロードを心からおすすめできる人

以上のメリットを踏まえると、グラベルロードを本当に必要とし、その性能を100%引き出せるのは、以下のような人である。
- 明確に「林道や砂利道を走りたい」という目的がある人: 自宅の近くに走れるグラベルコースがあり、週末ごとにオフロードライディングを楽しみたいと考えている人。
- バイクパッキングでキャンプツーリングを楽しみたい人: スピードよりも、荷物を積んで見知らぬ土地を旅することに喜びを見出す人。
- スピード競争から降り、自由な旅を求める人: 誰かと速さを競うのではなく、道を選ばない自由さ、風景を楽しむ余裕をサイクリングに求める人。
- ロードバイクを既に所有している人の「セカンドバイク」として: 舗装路用の決戦バイクとは別に、遊びの幅を広げるための2台目として導入する。これは最も賢明な選択の一つかもしれない。
- 通勤・通学で速さより安定性を求める人:普段の足として自転車を使うが、ちょっとロードっぽいスポーツ自転車でかっこよく通勤通学したい人にとってはちょうどよい。
もしあなたがこのいずれかに当てはまるのであれば、グラベルロードはあなたのサイクリングライフを間違いなく豊かにしてくれるだろう。
QA:グラベルロードに関するよくある疑問

Q1. 通勤や街乗りでグラベルロードを使うのはアリ?
A1. アリである。
むしろ、街中の段差や荒れた路面に強く、パンクしにくいという特性は通勤・街乗りに非常に適している。
太いタイヤは安定感があり、急な雨でもディスクブレーキはしっかり効く。ただし、その性能はオーバースペック気味とも言える。
より安価で軽量な「クロスバイク」という選択肢も有力であることは忘れてはならない。
日々の駐輪などを考えると、高価なグラベルロードは盗難のリスクも高い。
Q2. 持っているロードバイクのタイヤを太くするだけではダメ?
A2. まず、あなたのロードバイクのフレームとブレーキが、どれくらいの太さのタイヤまで許容するか(タイヤクリアランス)を確認する必要がある。
最近のディスクブレーキ仕様のエンデュランスロードなら32c程度まで入ることもあるが、リムブレーキの旧来のロードバイクでは25cや28cが限界であることが多い。
また、タイヤを太くするだけでは、グラベルロードの持つ安定性の高いジオメトリは手に入らない。
あくまで「ロードバイクの延長線上での快適性アップ」と考えるべきだ。
しかし、前述の通り「ライトなグラベル」であれば、それで十分楽しめる可能性は高い。
Q3. グラベルロードの代わりにシクロクロスバイクはどう?
A3. シクロクロスバイクは、グラベルロードと見た目が似ているため混同されがちだが、そのルーツは全く異なる。
シクロクロスは「シクロクロスレース」という障害物のあるオフロードコースを走るための「競技用機材」である。
そのため、ジオメトリはより機敏でクイックなハンドリング特性を持ち、乗り心地も硬めだ。
ツーリングに求められる安定性や快適性、拡張性(ダボ穴など)は考慮されていないことが多い。
汎用性や旅の道具としての性能を求めるなら、グラベルロードに軍配が上がる。
まとめ:あなたにグラベルロードは本当に必要か?

「グラベルロードはいらない」という疑問は、決してグラベルロードという車種そのものを否定するものではない。
むしろ、その魅力的なコンセプトと万能性という言葉の裏に潜む「中途半端さ」を理解せず、流行に流されて購入してしまうことへの警鐘である。
結論として、明確な目的を持たず、サイクリングの9割以上が舗装路になるであろう大多数のサイクリストにとって、グラベルロードは不要である可能性が高い。
多くの場合、最新のエンデュランスロードバイクでその役割は十分に果たせてしまうからだ。
とはいえ、以下のような人にはグラベルロードバイクはおすすめできる。
- 明確に「林道や砂利道を走りたい」という目的がある人: 自宅の近くに走れるグラベルコースがあり、週末ごとにオフロードライディングを楽しみたいと考えている人。
- バイクパッキングでキャンプツーリングを楽しみたい人: スピードよりも、荷物を積んで見知らぬ土地を旅することに喜びを見出す人。
- スピード競争から降り、自由な旅を求める人: 誰かと速さを競うのではなく、道を選ばない自由さ、風景を楽しむ余裕をサイクリングに求める人。
- ロードバイクを既に所有している人の「セカンドバイク」として: 舗装路用の決戦バイクとは別に、遊びの幅を広げるための2台目として導入する。これは最も賢明な選択の一つかもしれない。
- 通勤・通学で速さより安定性を求める人:普段の足として自転車を使うが、ちょっとロードっぽいスポーツ自転車でかっこよく通勤通学したい人にとってはちょうどよい。
この記事がグラベルロード購入の検討材料となれば幸いだ。