ロードバイク乗りにとって、街中に潜む「段差」は避けて通れない障害物である。
軽快に走っている最中に現れる歩道の切り下げや、舗装の継ぎ目は、一瞬の油断がパンクや落車につながる危険をはらんでいる。
筆者もロードバイクに乗り始めた頃、何度も段差で痛い目に遭ってきた。
特に「リム打ちパンク」は、段差乗り越えの失敗が引き起こす典型的なトラブルだ。
しかし、ロードバイクの特性と正しいテクニックを理解すれば、段差はもはや天敵ではなくなる。
むしろ、スムーズに乗り越えられた時の達成感は、ライディングスキル向上の証となるだろう。
この記事では、ロードバイクがなぜ段差に弱いのかという構造的な理由から、具体的な乗り越え方のテクニック、さらにはパンクを防ぐための機材選びまで、筆者の経験を交えながら網羅的に解説していく。
この記事でわかること
- ロードバイクが段差に弱い構造的な理由
- 段差を乗り越える際の絶対にやってはいけないNG行動
- 安全に段差をクリアするための基本テクニック「抜重」
- パンクを防ぐための機材選びとセッティングのポイント
なぜロードバイクは段差に弱いのか?その構造的な理由
そもそも、なぜロードバイクは他の自転車と比べて、ことさらに段差に弱いと言われるのだろうか。
その理由は、速く、そして遠くへ走るために特化された、ロードバイクならではの構造にあるのだ。
細いタイヤと高い空気圧

ロードバイクの最大の特徴は、地面との唯一の接点である細いタイヤだ。
一般的なクロスバイクやシティサイクル(ママチャリ)のタイヤ幅が30mm以上あるのに対し、ロードバイクは25mm〜28mmが主流である。
タイヤが細いということは、路面との接地面積が小さく、転がり抵抗が少ないことを意味する。
これがロードバイクの軽快な走りを生み出す源泉なのだ。
しかし、その反面、タイヤ自体のクッション性は低くなる。
さらに、その細いタイヤの性能を最大限に引き出すため、空気圧は6bar〜8barといった高圧に設定される。
パンパンに張ったタイヤは衝撃を吸収する能力が低く、段差からの突き上げをダイレクトにライダーと車体に伝えてしまうのである。
軽量で剛性の高いフレームとフォーク

ロードバイクのフレームやフロントフォークは、ライダーの力を効率よく推進力に変えるため、非常に剛性が高く作られている。
ペダルを踏み込んだ力がフレームのしなりによって逃げてしまわないように、カッチリとした乗り心地が追求される。
また、軽量化も重要な要素であり、余分な衝撃吸収機構(サスペンション)は搭載されていない。
この「高剛性・軽量・サスペンションレス」という三位一体の構造が、段差からの衝撃を和らげることなく、直接的にフレームやホイール、そしてライダーに伝達する原因となっているのだ。
リム打ちパンクのリスク

ロードバイクの段差越えで最も頻発するトラブルが「リム打ちパンク」である。
これは、段差の角にタイヤが強く叩きつけられた際に、タイヤとチューブがホイールのリム(縁)と段差の角に挟まれて穴が開いてしまうパンクのことだ。
スネークバイトとも呼ばれ、チューブには蛇が噛んだような2つの穴が開くのが特徴である。
空気圧が低い状態や、サドルにどっかりと体重をかけたまま段差に突っ込むと、このリスクは格段に高まる。
高い空気圧で運用するロードバイクであっても、段差からの衝撃は想像以上に大きく、一瞬でこの悲劇を引き起こすのだ。
ロードバイクでの段差の基本!絶対にやってはいけないNG行動
テクニックを語る前に、まずは段差を乗り越える際に絶対にやってはいけないNG行動を理解しておく必要がある。
これを避けるだけでも、トラブルのリスクは大幅に減少するはずだ。
段差NG行為①スピードを落とさず突っ込む

「勢いをつけた方が乗り越えやすいのでは?」と考えるのは大きな間違いである。
スピードが乗った状態での段差への衝突は、衝撃の大きさを倍増させる。
ホイールやフレームへのダメージが大きくなるだけでなく、ハンドルを取られてバランスを崩し、落車につながる危険性が非常に高い。
段差を発見したら、まずは落ち着いて減速することが鉄則だ。
段差NG行為②サドルにどっかり座ったまま乗り越える

これは初心者が最もやりがちな失敗であり、リム打ちパンクの最大の原因である。
サドルに体重が乗ったままだと、その荷重がダイレクトに後輪にかかる。
その状態で段差にヒットすれば、タイヤとチューブは無防備に潰され、いとも簡単にリム打ちパンクを引き起こしてしまう。
筆者が初めてリム打ちパンクを経験したのは、まさにこの「サドルに座ったまま」の状態で、サイクリングロードから一般道へ出る際の数センチの段差に突っ込んだ時だった。「ガツン!」という鋭い衝撃と共に、後輪から「プシュー」という空気が抜ける虚しい音が聞こえたのを今でも覚えている。
段差NG行為③段差に対して斜めに進入する

段差に対して、ホイールが直角に近い角度で進入するのが理想だ。
これが浅い角度、つまり斜めから進入してしまうと、タイヤが段差の角に沿って横に滑り、ハンドルを取られてバランスを崩しやすくなる。
特に濡れた路面や、マンホールの蓋などの滑りやすい段差では、この傾向が顕著になる。
車道から歩道へ乗り上げる際など、斜めからのアプローチになりがちな場面では特に注意が必要だ。
可能な限り、一度膨らんでから進入するなどして、できるだけ直角に近い角度を確保することが重要である。
【基本テクニック】ロードバイクで低い段差を安全に乗り越える方法
NG行動を理解した上で、いよいよ安全に段差を乗り越えるための基本テクニックを解説する。
その核心となるのが「抜重(ばつじゅう)」という動作だ。
これは自転車の中心から自分の体重を「抜く」ことで、自転車を軽くし、衝撃を和らげる技術である。
段差テクニック①減速と進入角度の確保

まずは前述の通り、段差の手前で十分に減速する。 時速10km以下、歩くくらいのスピードまで落とすのが目安だ。
同時に、段差に対して可能な限り直角に進入できるライン取りを意識する。
段差テクニック②抜重(ばつじゅう)のやり方
抜重は前輪と後輪、それぞれタイミングをずらして行う。
前輪の抜重
- サドルから腰を浮かす: 段差の直前で、ペダルを地面と水平(3時と9時の位置)にして立ち上がり、軽く膝を曲げる。いわゆる「腰を引いたニュートラルポジション」だ。
- ハンドルを押し出す: 前輪が段差に差し掛かる瞬間に、腕を伸ばしてハンドルを軽く前方に押し出すようなイメージを持つ。
- 体を浮かせる: 同時に、膝のクッションを使って、自分の体を真上に「フワッ」と持ち上げる。
この一連の動作により、前輪から体重が抜け、タイヤが段差を乗り越える際の衝撃を劇的に軽減できる。
感覚としては、前輪が段差に「乗り上げる」のではなく、「乗り越えていく」イメージだ。
後輪の抜重
- 前輪通過後も腰は浮かせたまま: 前輪が無事に段差を通過しても、まだサドルには座らない。
- ペダルを引き上げる意識: 後輪が段差に差し掛かる瞬間に、前方の足(3時の位置にあるペダル)を少し引き上げるような意識を持つ。
- 膝で衝撃を吸収: 膝をさらに柔らかく使い、後輪が段差を乗り越える際の突き上げを体全体で吸収する。
後輪の抜重がうまくできると、「ガツン!」という衝撃が「コトン」という軽い感触に変わるはずだ。
この前後輪の抜重をスムーズに行えるようになれば、ほとんどの低い段差は怖くなくなる。
筆者の失敗談:段差で抜重をサボってリム打ちパンクした話

ロードバイクに慣れてきた頃、「このくらいの段差なら大丈夫だろう」と高をくくり、抜重を中途半端に行ったことがある。
結果は、見事なリム打ちパンクだった。
特に疲労が溜まってくるロングライドの後半などは、集中力が切れやすく、こうした基本的な動作を怠りがちになる。
「面倒くさい」「大丈夫だろう」という油断が、パンク修理という大きな時間的・精神的ロスにつながるのだ。
この失敗以来、筆者はどんなに低い段差でも、必ず丁寧に抜重を行うことを自分に課している。
安全マージンは、自分で作るものだと痛感した経験だ。
【応用テクニック】ロードバイクでの少し高い段差への対処法
抜重だけでは乗り越えるのが難しい、少し高めの段差(5cm〜10cm程度)に遭遇することもあるだろう。
そうした場面では、より積極的なバイクコントロール技術が求められる。
これらは練習が必要だが、習得すれば行動範囲が格段に広がる。
段差テク応用①フロントリフト(前輪を持ち上げる)

フロントリフトは、文字通り前輪を意図的に持ち上げて段差にぶつけずにクリアするテクニックだ。
「フロントアップ」とも呼ばれる。
- 抜重の基本姿勢: まずは抜重と同じく、腰を浮かせて膝を曲げ、ニュートラルポジションをとる。
- 体を沈み込ませる: 段差の直前で、腕と膝を深く曲げて、自転車に体をグッと沈み込ませる(タメを作る)。
- 一気に伸び上がる: タイミングを合わせて、沈み込ませた体を一気に伸ばし、ハンドルを胸に引きつけるようにして後方に体重移動する。
この時、腕の力だけでハンドルを引き上げるのではなく、体全体の伸び上がる力と体重移動を利用するのがコツだ。
うまくいくと、前輪がフワリと浮き上がり、段差の上に乗せることができる。
後輪は抜重の要領で衝撃をいなしてクリアする。
段差テク応用②バニーホップ(両輪を持ち上げる)※上級者向け

バニーホップは、フロントリフトで前輪を上げた後、さら後輪も引き上げて、自転車全体で段差を飛び越える究極のテクニックだ。
これができれば、理論上はかなりの高さの段差もクリアできる。
しかし、高度なバランス感覚とバイクコントロール技術が要求されるため、習得には相応の練習が必要だ。
公道でいきなり試すのは非常に危険であるため、まずは安全な広場などで、障害物のない状態で練習することをおすすめする。
初心者のうちは、まずは抜重とフロントリフトを確実にマスターすることを目指すべきだ。
筆者の成功談:フロントリフトを習得してライドが快適になった話(段差克服)
筆者はロードバイクでロングライド・ブルベを走っていて、どうしてもコンビニ休憩など歩道に乗り上げなければならない箇所がいくつかあった。
そこで、安全な公園でフロントリフトの練習を始めた。
最初は全く前輪が上がらず、バランスを崩してばかりだったが、YouTubeの解説動画などを参考に、体重移動の感覚を掴んでいった。
数週間の練習の末、スムーズに前輪を歩道の縁石に乗せられるようになった時の感動は忘れられない。
今では通勤用の折り畳み自転車でも、段差はストレスなくクリアできるようになった。
スキルを身につけることで、安全性が向上するだけでなく、ライディングそのものがより楽しく、自由になることを実感した瞬間だった。
ロードバイクの段差対策!パンクを防ぐための機材とセッティング
テクニックだけでなく、機材の選択やセッティングによっても、段差への耐性を高めることができる。
ここでは、パンクのリスクを低減するための具体的なアプローチを紹介する。
段差機材対策①太めのタイヤを選択する

近年、ロードバイクのタイヤはワイド化(太くなること)がトレンドとなっている。
かつては23mmが主流だったが、現在は25mmや28mm、エンデュランスロードなどでは30mm以上のタイヤを装着するモデルも増えている。
タイヤが太くなると、内部の空気量(エアボリューム)が増える。
エアボリュームが増えると、同じ空気圧でもクッション性が向上し、段差からの衝撃をより効果的に吸収してくれるのだ。
これにより、リム打ちパンクのリスクが大幅に低減され、乗り心地もマイルドになる。
自分の自転車のフレームやブレーキが対応する範囲で、少し太めのタイヤを試してみるのは非常に有効な段差対策である。
タイヤの太さについては下記記事にて解説。
段差機材対策②チューブレスタイヤ・チューブレスレディタイヤの活用
チューブレスタイヤは、自動車やオートバイのタイヤのように、内部にチューブを持たない構造のタイヤだ。
そもそもチューブが存在しないため、構造上「リム打ちパンク」が起こらないという最大のメリットがある。
また、タイヤ内部にシーラントと呼ばれる液体を入れることで、小さな穴であれば自動的に塞いでくれる機能もある。
導入には対応するホイールが必要であり、セットアップに少し手間がかかるという側面もあるが、パンクのリスクを劇的に減らしたいライダーにとっては、これ以上ない選択肢と言えるだろう。
段差機材対策③適正空気圧の管理の重要性

どんなに良いタイヤを使っていても、空気圧の管理を怠れば意味がない。
空気圧が低すぎると、リム打ちパンクのリスクが急上昇する。
逆に高すぎると、タイヤが跳ねてしまい、グリップ力が低下し、乗り心地も悪化する。
自分の体重、タイヤの幅、そして路面状況に合わせて、適正な空気圧に調整することが重要だ。
空気圧は自然に抜けていくものなので、ライドの前には必ずフロアポンプでチェックする習慣をつけよう。
表:タイヤ幅と体重別 推奨空気圧の目安(クリンチャータイヤの場合)
タイヤ幅 / 体重 | 50kg | 60kg | 70kg | 80kg |
25mm | 6.0 bar | 6.5 bar | 7.0 bar | 7.5 bar |
28mm | 5.0 bar | 5.5 bar | 6.0 bar | 6.5 bar |
30mm | 4.5 bar | 5.0 bar | 5.5 bar | 6.0 bar |
※あくまで一般的な目安である。タイヤメーカーが推奨する空気圧の範囲内で調整すること。
空気圧について下記記事で詳細に解説している。
そもそもロードバイクで段差は避けるべきか?

ここまで段差を乗り越える方法について解説してきたが、最後に本質的な問いに触れておきたい。
それは「そもそも段差は避けるべきなのか?」という問題だ。
基本は段差を「避ける」が正解
結論から言えば、ロードバイクにとって段差は可能な限り「避けるべき」障害物である。
どれだけテクニックを駆使し、良い機材を使ったとしても、段差を乗り越える行為にはリスクが伴う。
車体へのダメージ蓄積、パンク、落車など、様々なトラブルの引き金になり得る。
安全な走行ライン上に回避できるルートがあるならば、迷わずそちらを選択するのが最も賢明な判断だ。
どうしても避けられない段差との付き合い方
しかし、実際の公道では、工事中の道路や、構造上どうしても避けられない段差が存在する。
そうした場面で、今回解説したテクニックが活きてくる。
「避けられないから仕方なく突っ込む」のではなく、「避けられないからこそ、安全な方法でクリアする」。
この心構えが重要だ。 危険を予測し、事前に準備し、確実な技術で対処する。
これが、段差と上手く付き合っていくための唯一の方法である。
段差を乗り越える練習のすすめ
安全な段差との付き合い方を身につけるためには、やはり練習が不可欠だ。
交通量のない公園や広場などで、低い縁石などを利用して、抜重やフロントリフトの練習をしてみよう。
何度も反復練習することで、体が一連の動作を覚え、いざという時に無意識に実践できるようになる。
スキルは、安全マージンを広げるための最高の保険なのだ。
ロードバイクの段差に関するQ&A

最後に、ロードバイクと段差に関してよくある質問に答えていく。
Q1: 段差でフレームにダメージは入る?
A1: 可能性はゼロではない。
特に、高速で大きな段差に突っ込んだ場合、フレームやフォーク、ヘッドパーツなどに目に見えないダメージが蓄積することがある。
カーボンフレームは金属と違って疲労破壊しにくいとされるが、強い衝撃一発で破断する可能性もある。
また、ホイールのリムが変形(振れ)したり、スポークが緩んだりすることも考えられる。
段差を乗り越えた後に、異音や違和感がないかを確認する習慣をつけることも大切だ。
Q2: 歩道に上がるときの段差はどうすればいい?
A2: 原則として、ロードバイクは車道走行が基本である。
しかし、「自転車通行可」の標識がある歩道や、車道の交通量が多く危険な場合など、やむを得ず歩道に上がることがある。
その際の段差は、今回解説したフロントリフトを使うのが最もスマートだ。
スピードを十分に落とし、歩行者がいないことを確認した上で、安全にアプローチすることが絶対条件である。
自信がなければ、無理せず一度自転車から降りて持ち上げるのが最も安全な方法だ。
Q3: カーボンホイールは段差に弱い?
A3: 一概に「弱い」とは言えないが、注意は必要だ。
現代の高品質なカーボンホイールは、アルミホイールと同等か、それ以上の強度を持つように設計されている。
しかし、素材の特性として、カーボンは金属のように凹むのではなく、限界を超えた衝撃が加わると「割れる(破断する)」ことがある。
特にリム打ちパンクを起こすような強い衝撃は、カーボンリムに深刻なダメージを与える可能性がある。
高価なパーツであるからこそ、より丁寧な段差のクリアが求められると言えるだろう。
まとめ:ロードバイクの段差を制して快適なサイクリングを!

ロードバイクにとって段差は、確かにリスクを伴う障害物である。
しかし、その構造的な弱点を理解し、正しい知識と技術を身につけることで、そのリスクは大幅に軽減することができる。
重要なのは、以下の3つのポイントだ。
- 予測と準備: 常に路面の状況に注意を払い、段差を早期に発見し、減速と進入角度の確保を行う。
- 基本技術の習得: 「抜重」をマスターし、体への衝撃を最小限に抑える。
- 適切な機材選択: タイヤの選択や空気圧管理で、物理的にパンクのリスクを低減させる。
筆者自身、数々の失敗を経て、段差との付き合い方を学んできた。
この記事で紹介した内容が、これから段差という壁に挑むロードバイク乗りの一助となれば幸いである。
段差を恐れるのではなく、正しく対処する方法を学び、安全で快適なロードバイクライフを楽しんでほしい。
特にロングライドではパンク耐性は重要。こちらの記事でロングライド向けタイヤを紹介しているので、参考にしてほしい。