ロードバイクのパフォーマンスを左右するパーツは数多く存在するが、意外と見過ごされがちなのが「インソール」である。
シューズに付属する標準のインソールを使い続けているライダーも少なくないだろう。
しかし、インソールはペダリング効率、快適性、そして怪我の予防に直結する極めて重要なパーツなのだ。
筆者は2015年にロードバイクを始め、今では600kmのブルベを完走しSR(シューペル・ランドヌール)を取得するほどロングライドにのめり込んでいるが、ここまで来るのにインソールの恩恵は計り知れない。
特に長距離を走ると、その差は歴然と現れる。
この記事では、筆者の数々の失敗と成功の経験を基に、ロードバイク用インソールの重要性から、後悔しないための選び方までを徹底的に解説する。
この記事でわかること
- なぜロードバイクに専用インソールが必要なのか
- インソール選びで失敗しないための4つの重要ポイント
- インソールの種類(既製品・熱成形・カスタム)と特徴
- ロングライドにおけるインソールの具体的な効果
- タイプ別のおすすめインソール
筆者愛用のインソールはこちら。スーパーフィートは程よい硬さと固定力でロングライドやブルベにぴったり!
なぜロードバイクにインソールは必要なのか?その驚くべき効果とは
結論から言えば、ロードバイクに専用インソールは「必須」である。
なぜなら、ライダーのパワーをペダルに伝える唯一の接点である「足裏」を最適化し、パフォーマンス向上と疲労軽減に直結するからだ。
多くのサイクリングシューズに標準で付属しているインソールは、正直なところ「ただの薄い中敷き」に過ぎない場合がほとんどである。
これはコストダウンのためであり、全てのライダーの足に合うようには作られていない。
ここに、専用インソールがもたらす具体的な効果がある。
インソール効果①パワー伝達効率の向上

ペダリングの際、足裏のアーチ(土踏まず)は僅かに潰れ、力をロスしている。
適切なインソールはこのアーチをしっかりと支え、足のブレを抑制する。
これにより、踏み込んだ力が逃げることなく、ダイレクトにペダルへ伝わるようになるのだ。
筆者の体感では、特に登り坂やスプリントのような高負荷時に、ペダルと足の一体感が増し、より少ない力で進む感覚を得られた。
インソール効果②足裏の痛みや痺れの軽減

ロングライドで多くのライダーが経験するのが、足裏の痛みや「ホットスポット」と呼ばれる灼熱感だ。
これは、足裏の一点に圧力が集中することが主な原因である。
インソールは足裏全体で体重を支えるように圧力を分散させ、特定の箇所への負担を大幅に軽減する。
筆者もSR取得を目指す過程で、ノーマルインソールのまま400kmブルベに挑み、残り100kmで足裏の激痛に苦しんだ経験がある。
インソールを替えてからは、600kmを走っても足裏の痛みはほぼ皆無となった。
インソール効果③膝や腰への負担軽減

ペダリング中の足のブレは、膝や股関節のねじれを引き起こす。
この小さなねじれの繰り返しが、膝痛や腰痛の原因となることがあるのだ。
インソールで足裏を安定させることは、下半身全体の骨格アライメントを整えることに繋がり、結果的に膝や腰への負担を軽減する効果が期待できる。
インソール効果④疲労の軽減

上記1〜3の効果が複合的に作用し、全身の疲労を軽減する。
無駄な動きが減り、効率的なペダリングが可能になることで、長距離を走った際の疲労度が全く違ってくるのだ。
これは、翌日の回復速度にも影響を与える重要な要素である。
ロードバイク用インソール選びで失敗しないための4つの重要ポイント
インソールの重要性は理解できたが、では一体どれを選べば良いのか。
ここが最も難しい問題だ。
闇雲に高価なものを買っても、自分の足に合わなければ宝の持ち腐れとなる。
ここでは、インソール選びで失敗しないための4つの鉄則を解説する。
ポイント1:自分の足のタイプ(アーチの高さ)を知る

これが全ての基本であり、最も重要なポイントだ。
人間の足のアーチは、大きく分けて3つのタイプに分類される。
アーチタイプ | 特徴 | 起こりやすいトラブル |
ノーマルアーチ | 理想的なアーチ。体重を効率的に分散できる。 | - |
ハイアーチ(甲高) | 土踏まずのカーブが極端に高い。足裏の接地面積が少なく、踵と母指球に負担が集中しやすい。 | 足底筋膜炎、ホットスポット |
ローアーチ(扁平足) | 土踏まずが潰れている。着地時の衝撃吸収が苦手で、足が内側に倒れ込みやすい(オーバープロネーション)。 | 膝の痛み、シンスプリント |
【アーチタイプの簡易チェック方法(ウェットテスト)】
- 足の裏を水で濡らす。
- 乾いた新聞紙や色の濃い紙の上に立つ。
- 紙についた足跡の形で判断する。
- 土踏まず部分が半分ほど濡れていれば「ノーマルアーチ」。
- 土踏まず部分がほとんど濡れていなければ「ハイアーチ」。
- 足裏全体がべったりと濡れていれば「ローアーチ」。
まずは自分の足のタイプを把握し、それに合ったアーチサポートを備えたインソールを選ぶことが大前提である。
筆者は自分がハイアーチであることを知らずに、海外製のアーチサポートが軽めのインソールを試したことがある。結果、土踏まずがスカスカで、踏み込むパワーが逃げている感覚があり、失敗した経験があった。
逆にローアーチなのに、ハイアーチのインソールで走ってしまうと、わずかな距離を走っただけでも土踏まずの圧迫がつよく、激痛でライドを中止しなければいけないこともある。
自分の足を知ることが、失敗を避ける第一歩だ。
ポイント2:インソールの硬さ(剛性)で選ぶ

インソールの素材や構造によって、その硬さ(剛性)は大きく異なる。
これも重要な選択基準となる。
硬さのタイプ | 主な素材 | メリット | デメリット | こんな人におすすめ |
ソフトタイプ | EVA、衝撃吸収ゲル | 快適性が高い、足馴染みが良い | パワー伝達効率はやや劣る | 初心者、ポタリング、快適性重視のロングライド |
ハードタイプ | カーボン、硬質プラスチック | パワー伝達効率が非常に高い、足のブレを強力に抑制 | 硬いため足に合わないと痛みが出やすい、高価 | レース志向、ヒルクライム、スプリント重視 |
どちらが良いという訳ではなく、目的によって選ぶべきである。
レースで1秒を争うライダーであればハードタイプが武器になるだろう。
しかし、ロングライドやブルベのように何百キロも走り続ける場合は、ある程度の柔軟性があるソフトタイプの方が結果的に快適で速く走れることもある。
硬すぎれば良いというものではないのだ。
ポイント3:インソールの成形タイプを理解する

インソールは、作り方によって大きく3種類に分けられる。
- 既製品(レディメイド)
- 特徴:最も一般的で、購入後すぐ使える。アーチの高さやサイズでいくつかのバリエーションがある。
- 価格帯:3,000円~8,000円程度
- メリット:手軽に試せる、比較的安価。
- デメリット:完璧なフィット感は得にくい。
- おすすめな人:インソールを初めて試す人、手軽に始めたい人。
- 熱成形タイプ
- 特徴:オーブンなどでインソールを加熱し、自分の足型に合わせて成形するもの。自宅でできるものと、ショップで行うものがある。
- 価格帯:8,000円~20,000円程度
- メリット:既製品より高いフィット感が得られる。
- デメリット:成形に失敗するリスクがある、やや高価。
- おすすめな人:既製品では満足できない人、より高いフィット感を求める人。
- カスタムオーダーメイド
- 特徴:専門のショップで足型を採寸し、完全に自分の足に合わせて作製する。
- 価格帯:20,000円~
- メリット:最高のフィット感とサポート性能。
- デメリット:非常に高価、作製に時間がかかる。
- おすすめな人:深刻な足のトラブルを抱えている人、パフォーマンスを極限まで追求したい人。
筆者は既製品のインソールで自分に合ったものを見つけられたので、長時間・長距離のブルベでも使用している。
いきなりカスタムに手を出すのではなく、まずは信頼できる既製品や熱成形から試してみるのが賢明だろう。
ポイント4:シューズとの相性を考える

最後に、見落としがちなのがシューズとの相性だ。
どんなに良いインソールでも、シューズの中で正しく収まらなければ意味がない。
- 厚みとボリューム
- インソールには厚みがあるため、元のインソールと入れ替えることでシューズ内部の容積が変わる。
- 厚すぎるインソールを入れると、甲が圧迫されたり、踵が浮いてしまったりすることがある。
- 購入前に、今使っているインソールを取り出して厚みを比較したり、可能であれば実際にシューズに入れて試着したりすることが重要だ。
- 形状のマッチング
- シューズの底面の形状とインソールの形状が合っていないと、インソールがずれたり、よれたりする原因になる。
- 特に、つま先の形状や幅がシューズと合っているかを確認する必要がある。
インソールは単体で考えるのではなく、「足・インソール・シューズ」の三位一体で考えるべきなのだ。
【タイプ別】ロードバイク用おすすめインソール考察
具体的な商品名を挙げることは避けるが、どのようなタイプのインソールが存在し、どのようなライダーに向いているのかを考察する。
初心者・快適性重視派におすすめのインソール
初心者や快適性を重視するサイクリストに求められるのは、難しいことを考えずに履くだけで快適性を向上させてくれるインソールである。
衝撃吸収性に優れたゲル素材や、適度な柔軟性を持つEVA素材をベースにしたものは足裏の負担を和らげ、膝や腰の痛みを防ぐ効果も期待できる。
アーチサポートも比較的穏やかで、多くの人に違和感なく受け入れられる形状をしていることが多い。
そのため「まずはインソールを試してみたい」という人にとって最適な選択肢だ。
筆者のおすすめは、手軽に導入できる Sidas アクションプラス や、
コスパに優れた ソルボ ランニングインソール である。
これらはシューズに入れるだけで足当たりが柔らかくなり、100km程度のロングライドでも足裏の痛みを大幅に軽減してくれる。
「インソールがもたらす変化」を体感する第一歩として、このクラスから始めるのがおすすめだ。
パフォーマンス向上を目指す中〜上級者向けインソール
より高いパワー伝達効率を求める中級者以上のライダーには、剛性の高いインソールが選択肢となる。
カーボンや硬質な樹脂で補強されたモデルは、アーチサポートだけでなく、踵をしっかりとホールドする「ヒールカップ」の形状も深く、硬く設計されている。
これにより、ペダリングの引き足から踏み込みまでの一連の動作において足がシューズ内でブレることを徹底的に防ぎ、効率的なパワー伝達を可能にする。
まさに「足とペダルを一体化」させるためのパーツと言えるだろう。
筆者が推奨するのは スペシャライズド Body Geometry SL Footbeds や、フィッティング精度の高さで定評のある Sidas Bike+ である。
ただし、このクラスは硬さがある分フィッティングがシビアで、自分に合わないと逆に疲労や痛みを引き起こす可能性がある。
購入前にアーチの高さを確認することが重要だ。
ロングライド・ブルベで効果を発揮するインソール
筆者が最も重視しているのが、ロングライドやブルベ用のインソールである。
200km、300km、さらには600km以上の長距離を走る場合、求められるのは「高いパワー伝達効率」と「長時間持続する快適性」の両立だ。
硬すぎるインソールは後半に足の甲や土踏まずを痛める原因になり、柔らかすぎるインソールはアーチを支えきれずに疲労を溜めてしまう。
そのため、ベースは適度な剛性を持ちながら、表面素材にはクッション性を備えたハイブリッドな構造が理想的である。
筆者が愛用しているのは、Superfeet HERITAGE BLUE で柔らかすぎず丁度いいクッション性と、ヒールカップの固定感が好み。8年以上使っているほどだ。
快適性と剛性のバランスを重視するなら ソルスター Kontrol が選択肢になる。
特にロングライダーやブルベ参加者には、一度は試してほしいモデルである。
ロードバイク用インソールの効果を最大化する使い方と注意点
良いインソールを手に入れても、使い方が正しくなければ効果は半減してしまう。
- 慣らし期間を設ける
- 新しいインソールは、いきなり長距離で使うべきではない。
- 足が新しいサポートに慣れるまで、短い距離から徐々に使用時間を延ばしていくのが鉄則だ。
- 最初は違和感があるかもしれないが、それが正しいサポートによるものである場合も多い。ただし、痛みに変わるようであれば使用を中止すべきだ。
- 定期的な手入れ
- インソールは汗を大量に吸う。
- ライド後はシューズから取り出して陰干しすることを習慣づけるだけで、雑菌の繁殖を抑え、寿命を延ばすことができる。
- インソールは万能ではない
- 足の痛みの原因が、必ずしもインソールだけで解決するとは限らない。
- クリートの位置、サドルの高さや前後位置など、他の要素が原因であることも多い。
- インソールを替えても改善しない場合は、バイクフィッティングの専門家に見てもらうことも検討すべきである。
ロードバイクのインソールに関するよくある質問(Q&A)
Q1: ランニング用のインソールはロードバイクに使えないのか?
A1: 使えないことはないが、推奨はしない。
ランニングは着地の衝撃を吸収することが主目的であり、柔らかく作られていることが多い。
一方、ロードバイク用は硬いソールの上で力を伝えることが目的なので、求められる機能が異なる。
剛性が低く、サポート形状もサイクリングに最適化されていないため、専用品を使うべきである。
Q2: インソールの寿命はどのくらいか?
A2: 使用頻度や素材によって大きく異なるが、一般的には走行距離5,000km〜10,000km、または1〜2年が目安とされる。
見た目に変化がなくても、アーチを支える機能(コシ)が失われていることがある。
新品と比較して、明らかにへたっていると感じたら交換時期である。
Q3: 高価なカスタムインソールは本当に効果があるのか?
A3: 左右の足のサイズが違う、深刻な扁平足やハイアーチである、など、足に明確な特徴や悩みがある人にとっては、劇的な効果をもたらす可能性が高い。
既製品では得られない完璧なフィット感は、唯一無二の武器になるだろう。
ただし、万人に必要なものではなく、まずは良質な既製品や熱成形を試してからでも遅くはない。
Q4: インソールを入れたら逆に痛くなった。どうすればいいか?
A4: まずは使用を中止すること。
原因として、①アーチタイプが合っていない、②慣らし期間が不足している、③インソールがシューズに合っておらず中でズレている、などが考えられる。
特にアーチの圧迫による痛みは、インソールのタイプが合っていない可能性が高い。
購入したショップに相談するか、別のタイプを試すことを検討すべきである。
まとめ:最適なインソールでロードバイクライフをさらに快適に!

ロードバイクにおけるインソールは、決して主役ではないかもしれない。
しかし、その存在は縁の下の力持ちとして、我々のライドを根底から支える極めて重要な役割を担っている。
- インソールはパワー伝達効率を高め、痛みや疲労を軽減する。
- 選び方の鉄則は「足のタイプ」「硬さ」「成形タイプ」「シューズとの相性」の4つ。
- いきなり高価なものを買うのではなく、自分の目的と足に合ったものから試すべき。
筆者自身、インソールという沼に足を踏み入れ、数多くの失敗を繰り返してきた。
しかし、その末に自分にとって最適の一枚を見つけた時、ロードバイクの楽しさが一段も二段も深まったことは事実である。
この記事が、あなたのインソール選びの一助となり、より快適で、より遠くへ行けるロードバイクライフに繋がることを願っている。
筆者愛用のインソールはこちら。スーパーフィートは程よい硬さと固定力でロングライドやブルベにぴったり!