念願のロードバイクを手に入れた高揚感も束の間、「さて、具体的に何をどう練習すればいいのだろうか?」という疑問にぶつかるのは、誰もが通る道である。
ただ闇雲に走り出すだけでは、せっかくのロードバイクの性能を引き出せないばかりか、思わぬ事故や怪我に繋がる危険性もはらんでいる。
大切なのは、段階を踏んで、正しい知識に基づいた練習を積み重ねていくことだ。
筆者はロードバイク歴10年で200㎞以上のロングライドやブルベで楽しんでいる。初心者の頃、こういう練習しておけばよかったな、を紹介する。
本記事では、ロードバイクを購入したばかりの初心者が、安全を最優先しながら、着実にスキルアップしていくための具体的な練習方法を、筆者の経験も交えながら網羅的に解説していく。
この記事でわかること
- ロードバイクに慣れるための基本的な操作方法
- 効率的なペダリング技術の習得方法
- 安全なブレーキングとコーナリングのコツ
- 公道を走る上でのルールとマナー
- 目的別の具体的な練習メニュー
まずはこれだけ!ロードバイクに慣れるための基本操作練習

ロードバイクは、シティサイクル(ママチャリ)とは全く異なる乗り物である。
まずはその特性を理解し、身体に馴染ませることから始める必要がある。
いきなり公道に出るのではなく、安全が確保された場所で、地道な基本操作の反復練習を行うことが、結果的に上達への一番の近道となるのだ。
安全な練習場所の選び方:サイクリングロードがおすすめ!

最初の練習場所として最適なのは、以下の条件を満たす場所である。
- 交通量が皆無であること
- 路面が平坦で広いスペースが確保できること
- 人や障害物が少ないこと
具体的には、大きな公園の広場や、早朝の駐車場、河川敷のサイクリングロードなどが挙げられる。
筆者も最初は、近所のサイクリングロードで、練習を繰り返したものだ。
周りの目を気にする必要はない。 誰もが最初は初心者なのだから。
正しい乗車・降車の方法

ロードバイクの乗車・降車は、サドルが高い位置にあるため、シティサイクルとは勝手が違う。
特に、足を大きく振り上げてまたがる動作に最初は戸惑うだろう。
以下の手順を、自転車を壁などに軽くもたれさせた状態から練習すると良い。
【乗車の手順】
- 自転車の左側に立つ。
- 両手でハンドルをしっかりと握り、ブレーキをかけておく。
- 自転車を少し傾け、右足をサドルの後ろから大きく回してフレームをまたぐ。
- 地面に両足が着いた状態で安定させる。
- 利き足側のペダルを、時計の2時くらいの漕ぎ出しやすい位置にセットする。
- 利き足でペダルを強く踏み込みながら、反対の足で地面を蹴り、サドルにお尻を乗せる。
【降車の手順】
- 降りたい場所の手前から十分に減速する。
- 停止する直前に、地面に着きたい方の足のペダルを一番下まで下げる。
- 自転車が完全に停止すると同時に、下げていた方の足を地面に着ける。
- サドルからお尻を降ろし、フレームを跨ぐようにに立つ。
- 自転車を少し傾け、乗車時と逆の要領で足を回して自転車の横に立つ。
この一連の動作がスムーズにできるようになるまで、何度も反復練習することが重要である。
スムーズな発進と停止

乗車・降車に慣れたら、次はスムーズな発進と停止の練習だ。
ロードバイクは、軽い力で驚くほど加速する。
最初のうちは、そのスピード感に恐怖を感じるかもしれない。
発進のコツは、乗車の手順6で説明した通り、ペダルを「踏み込む」という意識を強く持つことである。
中途半半端な力で踏み込むと、車体がふらつき非常に危険だ。 停止する際は、前後輪のブレーキを同時に、じわっと握り込むのが基本である。
特に前輪ブレーキは制動力が高いため、急に強く握ると前転する危険がある。
最初は後輪ブレーキを主体に、前輪ブレーキは補助的に使う意識で練習すると良いだろう。
筆者も初心者の頃、信号で止まろうとして前輪ブレーキを強く握りすぎてしまい、ヒヤリとした経験がある。
ブレーキの感覚は、何度も練習して身体で覚えるしかないのだ。
低速でのバランス練習

ロードバイクは高速で走行する際は安定するが、低速ではバランスを取るのが難しい。
人混みや信号待ちからの発進など、実際の走行では低速で走らなければならない場面が多々ある。
広い場所で、あえて「できるだけゆっくり走る」練習をしてみよう。 地面に引かれた白線の上を、まっすぐ、ふらつかずにトレースする練習などが効果的だ。
視線が下を向くとバランスを崩しやすいので、常に進行方向の少し先を見ることを意識するのがコツである。
脱・初心者!効率的に走るためのペダリング練習
ロードバイクの基本操作に慣れてきたら、次のステップは「走り方」の質を高めることだ。
その核心となるのが「ペダリング」である。
ただガムシャラにペダルを踏むだけでは、すぐに足が疲れてしまい、長距離を走ることはできない。
ペダリングの基本:正しい「引き足」を意識する

シティサイクルのペダリングは、上から下にペダルを「踏む」動作が主体である。
しかし、ロードバイクではペダルを円運動として捉え、360度どこでも力を加えるのが理想とされる。
特に重要なのが、ペダルが下死点から上死点へ移動する際に、ペダルを「引き上げる」動作、通称「引き足」である。
この引き足を使うことで、踏み込む足とは反対の筋肉(ハムストリングスや腸腰筋)も動員され、より効率的でパワフルなペダリングが可能になる。
ただし、引き足を意識するには、ペダルとシューズを固定する「ビンディングペダル」の導入がほぼ必須となる。
最初は立ちごけ(停止時にペダルが外れず転倒すること)のリスクもあり怖いかもしれないが、得られるメリットは計り知れない。
筆者も最初は恐怖心から普通のフラットペダルで走っていたが、思い切ってビンディングペダルを導入したところ、登り坂での楽さや、長距離走行後の疲労感の少なさに驚愕した。
ここで注意したいのは、引き足という言葉のとおり、脚を引くことに力んでしまうこと。
感覚的には、360度全周を通してきれいな円を描くようにペダリングすること。決して、脚力でペダルを引いたり踏み抜いたりしないことだ。
360度全周を通して、ペダルとシューズの間に1mmくらい隙間があるようなイメージでクランクを回すとよい。
まずはペダルの固定力を最も弱い設定にして、安全な場所で何度も着脱の練習をすることをおすすめする。
ケイデンス(回転数)とは?最適なケイデンスを見つけよう

ケイデンスとは、1分間あたりのペダルの回転数のことである。(単位:rpm)
初心者は、重いギアを踏み込む、低いケイデンスの走りをしがちだ。
しかし、これは膝への負担が大きく、筋肉の疲労も早い。
プロのロードレース選手は、毎分90~100回転という高いケイデンスで走ることが多いが、アマチュアにとっては80rpm前後でペダリングできれば十分だ。
軽いギアを使い、クルクルと足を速く回す「高ケイデンス」の走りを意識することで、心肺機能には負荷がかかるが、筋肉への負担を減らし、長距離を安定して走り続けられるようになる。
一般的に、平坦な道ではケイデンス80rpm前後を維持するのが効率的とされている。
もちろん個人差はあるので、自分が最も快適に回し続けられるケイデンスを見つけることが重要だ。
ケイデンスを意識した練習方法

ケイデンスを意識するためには、「サイクルコンピューター」の導入が不可欠である。
安価なものでもケイデンス計測機能がついたモデルがあるので、ぜひ装備してほしい。
画面に表示されるケイデンスの数値を意識しながら、常に一定のケイデンスを保つ練習を繰り返そう。
最初は80rpmという速さに戸惑うかもしれないが、意識して続けるうちに、身体がそのリズムを覚えていくはずだ。
安全走行の要!ブレーキングとコーナリングの技術
ロードバイクはスピードが出る乗り物だからこそ、安全に「止まる」「曲がる」技術が極めて重要になる。
これらの技術は、公道での万が一の事態から自分の身を守るための生命線だ。
前後ブレーキの役割と正しい使い方

ロードバイクのブレーキは、前輪と後輪で役割が異なる。
ブレーキの種類 | 主な役割 | 特徴 | 注意点 |
前輪ブレーキ | 主制動 | 制動力が非常に高い | 強くかけすぎると前転のリスクがある |
後輪ブレーキ | 速度調整・補助 | 制動力が比較的弱い | 強くかけると後輪がロックし、スリップの原因になる |
基本は、前後両方のブレーキを同時にかけることである。
そして、その力の配分は「前輪5:後輪5」程度を意識すると良い。
下り坂など、強い制動力が必要な場面では、お尻をサドルの後方に引くようにして重心を後ろに移動させると、車体が安定し、より安全に減速することができる。
パニックブレーキを避けるための練習

公道では、人や車の飛び出しなど、予期せぬ事態が発生することもある。
そうした際に、パニックに陥ってブレーキを強く握りしめてしまう「パニックブレーキ」は非常に危険だ。
これを避けるため、安全な場所で「急制動」の練習をしておこう。
一定の速度から、最短距離で安全に停止する練習を繰り返すことで、いざという時に冷静に対処できるようになる。
筆者は下り発進時にバランスを崩しそうになって、パニックブレーキとなって後輪がロックしてしまった経験がある。そうならないためにも、ロードバイクの操舵に慣れておきたい。
安全なコーナリングの基本フォーム

コーナリングもまた、初心者が恐怖を感じやすいポイントである。
以下の基本を押さえることで、安定してスムーズに曲がれるようになる。
- 減速はコーナー進入前に完了させる: コーナーの途中でブレーキをかけると、タイヤがスリップしやすくなり危険だ。曲がる手前の直線部分で、十分に速度を落としておく。
- 目線はコーナーの出口へ: 恐怖心からつい目線が手前の地面に行きがちだが、自転車はライダーが見ている方向に進む性質がある。曲がりたい先の出口に視線を向けることが重要だ。
- リーンウィズで車体を傾ける: バイクと身体を一体にして、曲がりたい方向へ自然に傾ける。この時、曲がる方向とは反対側のペダルを下に(6時の位置に)し、しっかりと踏ん張ることで車体が安定する。これを「外足荷重」と呼ぶ。
筆者も、下り坂のコーナーでオーバースピードになり、怖い思いをしたことがある。それ以来、コーナーの手前での確実な減速を徹底するようになった。
スピードを出すことよりも、安全に曲がり切ることの方が何倍も重要なのである。
公道を走る前に知っておきたい!集団走行と交通ルール

基本技術が身についたら、いよいよ公道デビューである。
しかし、公道は練習場所とは違い、多くの危険が潜んでいる。
交通ルールを遵守し、他の交通参加者への配慮を忘れてはならない。
手信号の基本を覚えよう
自動車のウィンカーと同様に、ロードバイクでは「手信号」で進路変更や停止の意思を周囲に伝える。
これは法的な義務でもあり、安全のために必ず習得する必要がある。
以下はハンドサイン(手信号)の例だ。
- 右折: 右腕を水平に伸ばす、または左腕の肘を直角に上に曲げる。
- 左折: 左腕を水平に伸ばす、または右腕の肘を直角に上に曲げる。
- 停止: 腕を斜め下に伸ばす。
後続の自転車や自動車に、自分の次の行動を明確に伝えることで、追突などの事故を未然に防ぐことができる。
車道を走る際の注意点
ロードバイクは道路交通法上、「軽車両」に分類される。
したがって、原則として歩道ではなく「車道の左側端」を通行しなければならない。
これを「キープレフトの原則」と呼ぶ。
また、信号待ちなどで自動車の左側をすり抜ける行為は、左折する車に巻き込まれる危険性が非常に高いため、絶対に避けるべきである。
車と同様に、車列の後方で待つのが正しいマナーだ。
集団走行(グループライド)の基礎知識とマナー
ロードバイクの楽しみの一つに、仲間との集団走行(グループライド)がある。
しかし、これには特有のルールとマナーが存在する。
先頭を走る人は、後続のメンバーのために、路面の障害物(穴やガラス片など)を声やハンドサインで知らせる役割を担う。
後続のライダーは、前のライダーとの車間距離を適切に保ち、急ブレーキや急な進路変更を避ける必要がある。
初心者のうちは、経験豊富なライダーのいるグループに参加させてもらい、走りながらマナーを学ぶのが良いだろう。
目的別!おすすめの練習メニューとコース

基本をマスターしたら、次は自分の目的に合わせたトレーニングを取り入れてみよう。
ここでは代表的な3つの練習メニューを紹介する。
【目的別練習メニュー表】
目的 | 練習メニュー | 内容 | 効果 |
持久力・体力向上 | LSD (Long Slow Distance) | 会話ができるくらいの楽なペース(心拍数)で、長時間(90分以上)走り続ける。 | ・脂肪燃焼効率の向上<br>・心肺機能の強化<br>・長距離を走るための土台作り |
スピード向上 | インターバル走 | 全力で走る「高強度」の区間と、ゆっくり走る「低強度(回復)」の区間を交互に繰り返す。例:「1分全力+2分回復」を5セット。 | ・最大酸素摂取量の向上<br>・スピード持久力の強化<br>・レースなどでの高速走行に対応できる能力の育成 |
登坂力向上 | ヒルクライム | 坂道を登る練習。一定のペースを維持して登り切ることを目標にする。 | ・登坂に必要な筋力(特に体幹)の強化<br>・効率的なペダリング技術の習得<br>・精神的な忍耐力の向上 |
初心者におすすめの練習場所
- 平坦で安全な河川敷コース: LSDやインターバル走の練習に最適。信号や交差点が少ないため、集中してペダリングを意識できる。
- 緩やかな坂道が続くヒルクライム入門コース: 最初は短い、勾配の緩い坂から挑戦しよう。無理せず、自分のペースで登り切る達成感を味わうことが継続の秘訣だ。
- 整備されたサイクリングロード: 全国各地に整備されているサイクリングロードは、車が来ないため安全性が高い。路面も良いことが多く、初心者でも安心して長距離の練習ができる。
ロードバイク初心者のよくある質問(Q&A)

Q1. 練習頻度はどのくらいが良い?
A. 理想を言えば、週に2~3回乗る時間を作れると上達は早いだろう。
しかし、最も重要なのは「継続すること」である。
週末に1回だけでも、コンスタントに乗り続けることが、たまに長時間乗るよりも効果的だ。
まずは無理のない範囲で、生活の中にロードバイクに乗る習慣を取り入れることから始めよう。
Q2. どんな服装や装備が必要?
A. 安全のために、ヘルメットとグローブは必須である。
服装は、最初は動きやすいスポーツウェアでも構わないが、慣れてきたらパッド付きのサイクルパンツと、吸汗速乾性に優れたサイクルジャージの導入を強くおすすめする。
これらによって、お尻の痛みが大幅に軽減され、快適性が格段に向上する。
Q3. パンクした時が不安…どうすればいい?
A. パンクはロードバイクにつきものである。
いざという時に備え、予備のチューブ、タイヤレバー、携帯ポンプは必ず携行しよう。
そして、事前に自宅や自転車ショップで、チューブ交換の練習を必ずしておくことだ。
YouTubeなどの動画で手順を学ぶこともできる。
一度でも自分で交換した経験があれば、外出先での突然のパンクにも冷静に対処できる。
Q4. 坂道がどうしても登れない…
A. 焦る必要はない。
最初は誰でも坂道は辛いものだ。
まずは、ギアを一番軽いものにして、ケイデンスを意識してクルクル回すペダリングを試してみよう。
それでも登れない場合は、無理せず自転車から降りて押して歩いても良い。
何度も挑戦するうちに、少しずつ筋力がつき、登れる距離が伸びていくはずだ。
筆者も、初めて挑んだ峠道で何度も足を着いてしまい、悔しい思いをした。 その悔しさが、次のトレーニングへのモチベーションになったのだ。また、ペース配分の練習も大切だ。
まとめ:焦らず着実に!安全第一でロードバイクライフを楽しもう

ロードバイクの練習において、最も大切な心構えは「焦らないこと」そして「安全を最優先すること」である。
今回紹介した練習内容は多岐にわたるが、一度にすべてをマスターする必要はない。
まずは安全な場所で基本操作を身体に染み込ませ、次にペダリングやブレーキングといった個別の技術を一つずつ、着実に自分のものにしていく。
その過程で、昨日までできなかったことができるようになる喜びや、今まで行けなかった場所まで自分の力で到達する達成感を味わうことができるだろう。
それこそが、ロードバイクという趣味の最大の魅力なのである。
この記事が、あなたのロードバイクライフの確かな一歩となることを願っている。