ロードバイクの世界に足を踏み入れたなら、多くの人が夢中になる「カスタム」。
完成車を手に入れた時の喜びも束の間、イベントやSNSで見る、こだわりの詰まった他のライダー達のバイクが自然と目に入ってくるだろう。
カスタムは、ただパーツを交換するだけではない。
自分の走り方や好みを一台の自転車に反映させて、理想の走りを追い求めるプロセスだ。
この記事では、ロードバイク歴10年の筆者が、ロードバイクカスタムの基本的な考え方から、具体的なパーツ選び、そして筆者自身の成功談や少し苦い失敗談まで、詳しく解説していく。
初心者から、すでにカスタムの楽しさに目覚めた中級者まで、カスタムを進める上で、きっと役立つはずだ。
この記事でわかること
- ロードバイクをカスタムする目的(軽量化・快適性・見た目)
- 初心者から上級者まで、レベル別のおすすめカスタムメニュー
- 各カスタムパーツの効果と費用対効果
- カスタムにおける注意点と筆者の失敗談
- 自分だけの理想の一台を作り上げるためのヒント
なぜロードバイクをカスタムするのか?目的をはっきりさせよう
カスタムを始める前に、まず「自分はなぜカスタムをしたいのか?」を考えてみるのがおすすめだ。
この目的がはっきりしていると、パーツ選びで迷いにくくなり、満足のいく結果につながる。
カスタムの目的は、主に以下の4つに分けられる。
目的1:軽量化 - 1gでも軽くする楽しみ

ロードバイクの世界では「軽さは正義」という言葉がよく使われる。
特に坂道を上るヒルクライムでは、車体の軽さがパフォーマンスに直結する。
それに、純粋にバイクを持ち上げた時の軽さは、気分を上げてくれるものだ。
完成車の重量は、8kg~10kg台のモデルが多いだろう。
これを7kg台、さらには夢の6.8kg(UCI規定最低重量)以下を目指すのが、軽量化カスタムの面白いところだ。
ホイールやハンドル、サドルなど、多くのパーツに軽量化の可能性がある。
ただし、軽量化にはコストがかかることも覚えておきたい。
1gを削るために、数千円、数万円が必要になることも珍しくない。
目的2:快適性の向上 - 長距離をもっと快適に

ロングライドを楽しむライダーにとって、快適性はとても重要だ。
100km、200kmと走るうちに、体には少しずつ負担がかかってくる。
特にお尻の痛みや手の痺れは、多くのサイクリストが経験する悩みだろう。
これらの悩みは、サドルやバーテープ、タイヤ、そしてポジションを決めるハンドルやステムをカスタムすることで、大きく改善できる場合がある。
筆者自身も、サドルを自分の体に合ったものに変えたことで、100km以上走ってもお尻の痛みが気にならなくなった。
快適なバイクは、結果としてライダーの疲れを減らし、より速く、より遠くまで走る手助けをしてくれる。
目的3:エアロダイナミクス(空力性能)の追求

平地をある程度のスピードで走る時、一番の抵抗になるのは「空気抵抗」だ。
時速30kmを超えたあたりから、その影響は走行抵抗の大部分を占めると言われている。
この見えない壁をうまくやり過ごすことが、平地巡航の鍵だ。
リムハイトの高いディープリムホイールやエアロハンドルなどは、空気の流れをスムーズにして、同じ力でも速いスピードを維持しやすくしてくれる。
見た目に迫力が出るのも、エアロカスタムの魅力の一つだ。
目的4:ドレスアップ - 見た目はモチベーション

性能の向上はもちろん大切だが、「自分のバイクをカッコよくしたい」という気持ちも、立派なカスタムの動機だ。
好きな色のバーテープやアウターワイヤーに交換するだけでも、バイクの雰囲気は大きく変わる。
ボトルケージやバルブキャップといった小物で差し色を楽しむのも良いだろう。
何より、自分が気に入ったバイクは、乗ること自体を楽しくしてくれるし、走りに行くモチベーションも自然と上がる。
性能には直接関係ないように見えるドレスアップも、気持ちの面ではプラスの効果が大きい。
【レベル別】ロードバイクカスタム完全ガイド
ここからは、ライダーのレベルや予算に合わせ、具体的なカスタムメニューを紹介していく。
何から始めようか迷っているなら、ぜひ参考にしてみてほしい。
初心者向けカスタム|比較的安価で効果絶大!まずはここから
完成車を買ったばかりの初心者は、まず「走りの質」と「快適性」に直接関わる部分から手をつけるのがおすすめだ。
少ない予算でも、大きな変化を感じやすいパーツを紹介する。
1. タイヤ&チューブ - 走りが驚くほど変わるパーツ

完成車に最初から付いているタイヤは、コストの都合上、性能よりも耐久性を重視したモデルがほとんどだ。
これを転がりの良いハイグレードなタイヤに交換するだけで、走りは驚くほどスムーズになる。
筆者が初めて「Continental Grand Prix 5000(GP5000)」という定番タイヤに交換した時の感動は、今でもよく覚えている。
漕ぎ出しが軽くなり、スムーズに転がり、カーブでもしっかり地面を掴む感覚。
まるでバイクが少し軽くなったかのように感じた。
タイヤは数千円から1万円程度で、これほど走りを変えられるパーツは他にない。
コストパフォーマンスが最も高いカスタムと言えるだろう。
同時にチューブを軽量なものや、驚異的な軽さが特徴のTPUチューブに替えるのも効果的だ。
2. バーテープ - 見た目と握り心地をリフレッシュ

バーテープは、バイクの印象を手軽に変えられるパーツだ。
カラーバリエーションがとても豊富なので、フレームの色とコーディネートするのも楽しいだろう。
また、直接手が触れる部分なので、握り心地も大切だ。
クッション性が高くて疲れにくいもの、グリップが効いて滑りにくいものなど、様々な種類がある。
ロングライドが好きならクッション性、スピードを求めるならグリップ力、というように自分のスタイルに合わせて選ぶのがおすすめだ。
価格も1,000円~4,000円程度と手頃なので、気分転換にもぴったりなカスタムだ。
3. サドル - "サドル沼"という言葉があるほど奥が深い

お尻の痛みは、サイクリストにとって共通の悩みかもしれない。
サドル交換で解決を目指すが、ここには「サドル沼」という言葉があるほど、奥が深い世界が待っている。
なぜなら、人の骨盤の形はそれぞれ違うため、「他の人にとって良いサドルが、自分にも合うとは限らない」からだ。
ショートノーズ、ワイドタイプ、中央に溝があるものなど、形状は様々。
大切なのは、自分の坐骨の幅を知り、それに合ったサドルを選ぶことだ。
多くの自転車店で坐骨幅を測ってくれるので、一度試してみることを強くおすすめする。
自分にぴったりのサドルが見つかれば、ロングライドがもっと快適になる。
価格は1万円前後から3万円以上の高級モデルまである。
中級者向けカスタム|本格的な性能向上を目指す
基本的なカスタムを経験し、さらに上を目指したくなった中級者には、バイクの性能を大きく左右するパーツの交換がおすすめだ。
費用はかかるが、その価値は十分にある。
1. ホイール - カスタムの主役、ホイール交換

ロードバイクカスタムの主役と言えば、やはりホイールだ。
「ホイールを変えると走りが変わる」とよく言われるが、これは本当だ。
ホイールは常に回転している部分なので、その重量、特に外周部であるリムの軽さは、加速のしやすさに大きく影響する。
完成車に付属しているホイールは、比較的重いものが多いため、これを軽量なカーボンホイールに交換することで、バイクの性能は大きく向上する。
- リムハイト(リムの高さ):
- ロープロファイル(~30mm):軽くて横風に強く、坂道を上るのに向いている。
- ミドルプロファイル(30mm~50mm):空力と軽さのバランスが良く、どんな場面でも使いやすい万能タイプだ。
- ディーププロファイル(50mm~):空力性能が高く、平地を一定のスピードで走るのが得意だ。ただし、少し重くなり、横風の影響も受けやすくなる。
筆者は、初めてフルカーボンのディープリムホイール(リムハイト40mm)に交換した時、平地での巡航が明らかに楽になり、向かい風でもスピードを維持しやすくなったことに驚いた。
これが「エアロ効果」なのかと、はっきりと体感できた。
価格はアルミで5万円~10万円、カーボンなら15万円~40万円以上と高価だが、投資に見合う、あるいはそれ以上の満足感が得られるはずだ。
2. コンポーネント - 変速とブレーキのアップグレード

コンポーネントとは、変速機やブレーキ、クランクといった、自転車を動かしたり止めたりするためのパーツ一式のことだ。
SHIMANO(シマノ)の場合、Claris < Sora < Tiagra < 105 < Ultegra < Dura-Aceといったグレードがある。
完成車にはTiagraや105が使われていることが多いが、これをUltegraなどにアップグレードすると、変速がより滑らかで速くなり、ブレーキの効きやコントロール性も良くなる。
特に、ボタン一つで変速できる電動コンポーネント(Di2)は、一度使うと元に戻れないほどの快適さだ。
ロングライドの終盤で疲れている時でも、指一本で正確に変速できるメリットは計り知れない。
コンポ一式の交換は高額になるため、まずはブレーキ本体や、消耗したスプロケット、チェーンから交換していくのも良い方法だ。
上級者向けカスタム|とことんこだわる上級者向けカスタム
性能に一切妥協せず、最高の走りと満足感を求める上級者向けのカスタムだ。
1. フレーム - カスタムのゴールとも言える選択

ロードバイクの心臓部、それがフレームだ。
フレームの交換は、カスタムというより「新しいバイクに乗り換える」のに近いかもしれない。
素材にはクロモリ、アルミ、チタン、そして主流のカーボンなどがある。
同じカーボンでも、使われる繊維の種類や作り方によって、硬さ、快適さ、重さが全く異なる。
軽量なオールラウンドモデル、空力に特化したエアロモデル、快適性重視のエンデュランスモデルなど、特性は様々だ。
自分の走り方やメインのフィールドに合わせて、最高のパートナーとなる一本を選ぶのは、ロードバイク乗りにとって究極の楽しみの一つだ。
価格は30万円台から、中には100万円を超えるものまである。
2. ビッグプーリー、セラミックベアリング - わずかな抵抗を減らすためのこだわり
細部にまでこだわりたいなら、こんなカスタムもある。
究極を求めるライダーは、ごくわずかな摩擦抵抗も見逃さない。
リアディレイラーのプーリーを径の大きなもの(ビッグプーリー)に交換し、チェーンの抵抗を減らす。
ホイールの回転軸(ハブ)やクランクの付け根(BB)にあるベアリングを、よりスムーズに回るセラミックベアリングに交換する。
これらのカスタムは、変化をはっきりと体感するのは難しいかもしれないが、レースのコンマ1秒を削ったり、効果を発揮する。
まさに「沼」の深さを感じさせるカスタムだ。
忘れてはならないカスタムの注意点と筆者の失敗談

カスタムの楽しい面について話してきたが、いくつか注意点もある。
筆者の少し恥ずかしい失敗談と共に、ぜひ覚えておいてほしい。
パーツの互換性は要チェック
パーツには、メーカーやモデルの世代によって「互換性」がある。
例えば、シマノの11速用のコンポに、12速用のチェーンは使えない。13速も同様。
筆者も昔、よく確認せずにネットで安売りパーツを買い、届いてから自分のバイクに付かないことが分かって、完全に無駄な買い物になってしまった。
特にクランク周りのBB規格は複雑だ。
パーツを買う前には、自分のバイクの規格とパーツの互換性を必ず調べること。
自信がなければ、専門家であるショップに相談するのが一番確実だ。
トルク管理はとても重要
特にカーボンパーツは、ネジを締める強さ(トルク)の管理がとても重要だ。
締め付けが弱いとパーツが動いて危険だし、逆に強く締めすぎると「パキッ」と、高価なパーツが壊れてしまう。
筆者も過去に、シートポストのネジを締めすぎて、カーボンフレームにヒビを入れてしまったことがある。本当に血の気が引く思いだった。
カーボンパーツを扱う際は、必ず「トルクレンチ」という専用工具を使い、メーカーが指定する強さで締め付けること。 これは絶対のルールだ。
Q&A|ロードバイクカスタムのよくある質問

ここでは、カスタムについてよくある質問に答えていく。
Q1. 結局、どこからカスタムするのが一番おすすめ?
A1. 間違いなく「タイヤ」だ。
比較的少ない投資で、走りの軽さがはっきりと変わるのを体感できる。
カスタムの楽しさと効果を知るための、最高のスタート地点と言えるだろう。
まずはタイヤ交換から、その変化を楽しんでみてほしい。
Q2. 自分でカスタムしたいけど、どんな工具が必要?
A2. まずは、六角レンチセット、タイヤレバー、空気入れ(フロアポンプ)を揃えたい。
これだけあれば、基本的な調整やタイヤ交換ができる。
スプロケット交換など、もう少し進んだカスタムに挑戦するなら、スプロケットリムーバーやチェーンカッターといった専用工具が必要だ。
そして先ほども触れたが、カーボンパーツを扱うならトルクレンチは必須アイテムだ。
Q3. カーボンパーツの取り扱いで、他に注意することは?
A3. 落としたり、強くぶつけたりしないことだ。
カーボンは一定方向の力には強いが、一点に集中する衝撃には弱い性質がある。
見た目に傷がなくても、内部が損傷していることもあるので注意が必要だ。
また、シートポストなどには、滑り止め専用の「カーボングリス」を塗る必要がある。
普通のグリスとは役割が違うので、間違えないようにしたい。
筆者はカーボンのシートポストがライド中にすぐズレ落ちてしまっていたが、定番品ではあるが下記のグリスを塗ることで完全に防止できるようになった。
Q4. ショップにカスタムを依頼した場合の工賃はどれくらい?
A4. お店や作業内容によって変わる。
一例として、タイヤ交換は1本1,000円~2,000円、バーテープ交換は2,000円~3,000円、ホイール交換は3,000円~5,000円、コンポーネント一式の載せ替えだと20,000円~40,000円以上が目安だ。
プロに任せる安心感と確実な作業を考えれば、妥当な金額と言えるだろう。
安全に関わるブレーキ周りや高価なパーツの取り付けは、自信がなければ迷わずショップにお願いするのが賢明だ。
まとめ|自分だけの一台で、最高のサイクルライフを

ロードバイクのカスタムは、パーツと、自分と、そして予算と相談しながら進める、奥深く楽しい趣味だ。
軽さ、快適さ、速さ、そして見た目。
何を大切にして、どこにこだわるか。
自分だけの一台を作り上げていく、そのプロセス自体が、大きな楽しみの一つだ。
この記事で紹介したのは、広大なカスタムの世界のほんの一部だ。
大切なのは、情報をそのまま信じるのではなく、自分の目的をしっかり持ち、一つ一つのカスタムを楽しむことだ。
焦る必要はない。 まずはタイヤを替えてみたり、バーテープの色で悩んでみたり、自分に合うサドルを探す旅に出てみたり。
その一つ一つの経験が、あなたのサイクルライフを、より豊かなものにしてくれるはずだ。