ロードバイクの機材において、最も手軽で、かつ劇的に走り心地を変えるパーツがタイヤである。
特に「タイヤの太さ(幅)」の選択は、近年のロードバイク界で最もホットな話題の一つだ。
筆者がロードバイクを趣味として始めた2015年当時は、タイヤといえば「23c(23mm幅)」が絶対的な正義だった。
しかし、現在は28c、あるいは30c以上が主流となりつつある。
かつてロングライドが苦手だった筆者も、タイヤの太さを見直すことで走りが変わり、今では600kmブルベを完走しSR(スーパーランドナー)を取得するまでになった。
「太いタイヤは重くて遅いのではないか」という疑問を持つ人も多いだろう。
結論から言えば、適切な太さを選ぶことは、速さを犠牲にせず、快適性を手に入れる最短のルートである。
本記事では、タイヤの太さによる違いと、自分に合ったタイヤを選ぶための基準を解説する。
この記事でわかること
- なぜロードバイクのタイヤは太くなっているのか(トレンドの変化)
- タイヤの太さごとのメリット・デメリット(25c, 28c, 30cの違い)
- ロングライドやブルベ経験から見る、疲れにくいタイヤの選び方
- 自分のフレームやホイールに合うタイヤ幅の確認方法
ロードバイクのタイヤの太さ、主流はなぜ「細め」から「太め」へ変化したのか

かつて、ロードバイクのタイヤは細ければ細いほど地面との接地面積が減り、摩擦が少なくて速いと信じられていた。
筆者がロードバイクに乗り始めた頃も、ショップには23cのタイヤがずらりと並んでいたものだ。
しかし、現在の新車完成車についているタイヤの多くは28cや30c、あるいはそれ以上である。
なぜ、これほど短期間に常識が覆ったのだろうか。
その理由は大きく分けて「転がり抵抗」と「快適性」の2点にある。
転がり抵抗に関する新常識

「細いタイヤ=接地面積が小さい=抵抗が少ない」という図式は、実は単純すぎる考え方だったことが近年の研究で判明している。
同じ空気圧で比較した場合、実は太いタイヤの方が接地形状が縦に短く横に広くなるため、タイヤの変形によるエネルギーロス(ヒステリシスロス)が少ない。
つまり、路面が完全に平滑な実験室レベルであれば細いタイヤも有利だが、実際のアスファルトの上では太いタイヤの方が転がり抵抗が低くなるケースが多いのだ。
もちろん、太くなれば重量は増えるし、前面投影面積が増えて空気抵抗も増えるという反論もある。
しかし、時速30km〜40km程度のアマチュアライダーの速度域や、荒れた路面を含めた総合的な走りにおいて、太いタイヤのメリットがデメリットを上回ることが実証されつつある。
振動吸収性と疲労軽減

もう一つの大きな理由は、空気量の増大によるクッション性の向上だ。
タイヤが太くなると、中に入る空気の量が増える。
これにより、以前よりも低い空気圧で運用することが可能になった。
筆者も昔は23cのタイヤに7〜8barという高い空気圧を入れて、カチカチの乗り心地で走っていた。
地面の凹凸をダイレクトに拾い、振動が身体に蓄積していく感覚があったのを覚えている。
現在は28cや30cを使用し、空気圧を適正(例えば5bar前後)まで下げることで、速度低下を伴わずに滑らかで、振動吸収性の高い走りを手に入れた。
この「振動の少なさ」こそが、ロングライドでの後半のスタミナ維持に直結するのだ。
【比較解説】ロードバイクのタイヤ太さ(幅)による性能の違い

ここでは、代表的なタイヤ幅である25c、28c、30c(32c)について、それぞれの特徴を比較する。
数値はあくまで目安だが、傾向を理解するのに役立つはずだ。
| 特徴 | 25c (旧標準) | 28c (新標準) | 30c / 32c |
| 重量 | 軽い | 普通 | やや重い |
| 漕ぎ出し | 軽い | 普通 | 少し重さを感じる |
| 乗り心地 | 硬め | バランス良し | 非常に良い |
| 空気圧 | 高圧 (6-7bar〜) | 中圧 (4.5-6bar) | 低圧 (3.5-5bar) |
| 適正用途 | クライム、レース | オールラウンド、ロングライド | ロングライド、荒れた道 |
25c:軽快さとダイレクト感のバランス

現在、リムブレーキモデルのロードバイクに乗っている人にとって、現実的な選択肢の上限はこのあたりになることが多い。
23cに比べれば十分にエアボリュームがあり、乗り心地も悪くない。
漕ぎ出しの軽さは際立っており、ヒルクライムやストップ&ゴーの多い市街地走行では強みを発揮する。
路面の情報をダイレクトに感じたいライダーには好まれるサイズだ。
28c:現在のロードバイクのスタンダード

ディスクブレーキ搭載のロードバイクが増えたことで、一気に標準となったサイズである。
25cに比べて重量増はわずかでありながら、乗り心地の良さは体感できるレベルで向上する。
コーナリング時の接地感も安定するため、下り坂での安心感が増すのも大きなメリットだ。
「迷ったら28c」と言えるほど、バランスの取れた優等生である。
筆者はこの28Cタイヤ太さで、ブルベやロングライドを走っている。
30c / 32c:乗り心地向上と安定感

最近のエンデュランスロードや、一部のエアロロードでも採用が進んでいるサイズだ。
ここまで太くなると、重量増による漕ぎ出しの「もっさり感」を懸念する声もある。
しかし、一度スピードに乗ってしまえば、慣性モーメントの働きもあり速度維持は容易だ。
何より、路面のひび割れや小さな段差を気にするストレスから解放される。
【実体験】ロングライド・ブルベ視点で見るタイヤ太さ(幅)の選び方
筆者は現在、ブルベを中心に活動しており、600kmという長距離を一気に走ることもある。
その経験から断言できるのは、「長距離になればなるほど、太いタイヤの恩恵は大きくなる」ということだ。
疲れの質が変わる

2015年にロードバイクを始めた当初、23Cタイヤで100km走ると手のひらが痺れ、肩や首がガチガチに固まっていた。
当時は「これがロードバイクというものだ」と思い込み、ひたすら耐えていた。
しかし、タイヤを25c、そして28cへと太くしていくにつれて、身体へのダメージが激減した。
特に300kmを超えるブルベでは、路面からの微振動が数万回繰り返されることになる。
この微振動をタイヤがいなしてくれるかどうかで、翌日の身体の残存HP(ヒットポイント)が全く異なるのだ。
SR(スーパーランドナー)を取得できたのも、脚力がついたこと以上に、機材(特にタイヤ)による疲労軽減の恩恵が大きいと感じている。
巡航速度への影響は誤差範囲

「太いタイヤだと遅くなるのでは?」という懸念に対して、筆者の実績ベースで答えると、ブルベやロングライドのような一定ペースで走るシーンでは、タイムへの悪影響はほぼない。
むしろ、疲労がたまらない分、後半でもペースが落ちにくい。
もちろん、瞬間的な加速や、1秒を争うクリテリウムレースであれば、細くて軽いタイヤに分があるかもしれない。
しかし、週末のサイクリングやロングライドを楽しむ一般ライダーにとって、タイヤが太くなることによる速度低下は、体感できないレベルの誤差である。
ブルベライダーである筆者が現在使用しているタイヤは「アジリスト」の28C。軽量でありながら転がりもよく、実際に運用してみてパンクも年1回もないので、おすすめ!
タイヤの太さを変える際の注意点とクリアランス
タイヤを太くしたいと思っても、すべてのロードバイクで好きな太さを履けるわけではない。
物理的な制約を確認せずに購入すると、装着できないという失敗を招くことになる。
フレームとフォークのクリアランス

最も重要なのが、フレーム(チェーンステー、シートステー)およびフロントフォークとタイヤの隙間だ。
タイヤとフレームの間には、安全マージンとして最低でも3mm〜4mm程度の隙間が必要とされる。
特にリムブレーキ時代のフレームは、25cまでしか入らない設計のものが多い。
無理に28cを入れると、タイヤがフレームに擦れて塗装を削ったり、異物が挟まってロックしたりする危険がある。
自分のバイクのメーカー公式サイトで「最大タイヤ幅(Max Tire Clearance)」を確認するか、ショップで相談することをお勧めする。
リムの内幅(インターナルワイズ)

タイヤだけでなく、ホイールのリム幅も重要だ。
最近のホイールは「ワイドリム」化が進んでおり、内幅が19mmや21mm、あるいはそれ以上のものがある。
古いホイール(内幅15mmや17mm)に極端に太いタイヤを履かせると、タイヤが変形して断面が電球のような形になり、コーナーでよれる感覚が出ることがある。
逆に、最新のワイドリムに細すぎるタイヤを履かせることも推奨されない。
ホイールメーカーが推奨する適合タイヤ幅を守ることが、性能を発揮する前提となる。
目的別のおすすめタイヤ太さ(幅)はこれだ
これまでの解説を踏まえ、目的別におすすめのタイヤ幅を提案する。
1. ヒルクライムのタイム短縮・瞬発力重視の人

おすすめ:25c
登坂ではやはり軽さが正義である。
路面が綺麗な峠道を攻めるのであれば、過度な太さは不要だ。
軽量なホイールと組み合わせて、軽快なダンシングを楽しみたいならこのサイズが良い。
2. ロングライド・ブルベ・週末サイクリングなど万能に使いたい人

おすすめ:28c または 30c
筆者が最も推奨するサイズだ。
長い距離を走る上で、敵は風や坂だけでなく「振動による疲労」である。
また、ブルベでは夜間に走行することも多く、路面状況が見えにくい中で、太いタイヤの安定感は精神的な余裕にもつながる。
「速く走るため」ではなく「長く走り続けるため」の選択として、太めのタイヤを強く推したい。
3. 通勤・通学など普段使いの人

おすすめ:20c や 32c、またはそれ以上
街中の段差、排水溝のグレーチング、河川敷の少し荒れた道など、あらゆる状況に対応できる。
転がりも軽く、乗り心地も良い。
なるべくパンクのリスクを少なくすることが、通勤・通学には重要だ。
ロードバイクのタイヤ太さ(幅)に関するよくある質問(QA)

Q1. タイヤを太くすると、チューブも変える必要がありますか?
A. はい、変える必要がある場合が多いです。
チューブには「適合サイズ」が記載されている。
例えば「18-25c」対応のチューブを28cのタイヤで使うと、ゴムが伸びすぎてパンクのリスクが高まる。
タイヤを太くする際は、そのサイズに対応したチューブも合わせて購入する必要がある。
Q2. 太いタイヤにすると空気圧はどうすればいいですか?
A. 今までよりも下げるのが基本です。
タイヤが太くなるとエアボリュームが増えるため、同じ体重でも必要な空気圧は低くなる。
例えば25cで7bar入れていた人が28cにするなら、6bar〜5.5bar程度まで下げても問題ないことが多い。
最近はSRAMやSilcaなどがWeb上で公開している「空気圧計算サイト」があるので、それらを利用して適正値を調べるのが近道だ。
当ブログでも下記記事にて、最適な空気圧の選び方を解説しているので参考に。
Q3. リムブレーキのロードバイクですが、28cは履けますか?
A. 車種とブレーキキャリパーによります。
多くのリムブレーキ車は25cが限界だが、設計に余裕のあるモデルなら28cが入ることもある。
ただし、タイヤを外す際にブレーキシューに引っかかって外しにくくなるなどの弊害が出ることもある。
現物合わせが必要なケースが多いため、ショップで確認してもらうのが確実だ。
Q4. 筆者のおすすめのタイヤ銘柄はありますか?
A. コンチネンタルのGP5000シリーズやパナレーサーのAGILESTなどが定番。
耐久性と走行性能のバランスが良いモデルを選ぶのが、トラブルを避けるコツだ。
特にブルベのような長距離走行では、パンク耐性も重要になる。
グリップ力、転がりの軽さ、耐パンク性のバランスが高いハイエンドまたはセカンドグレードのタイヤを選ぶと、太さの違いによる性能差をより体感しやすい。
下記記事ではロングライドやブルベにおすすめのタイヤを、ブルベ600km完走・SR取得した筆者が厳選したので参考に。
まとめ:タイヤの太さ(幅)は「速さ」と「快適さ」のバランスで決める

ロードバイクのタイヤの太さについて解説してきた。
かつては「細い=速い」が常識だったが、技術の進歩とデータの蓄積により、現在は「適度な太さ=速くて快適」が新常識となっている。
重要なポイントを振り返る。
- トレンド: 転がり抵抗の低減と快適性の向上により、28cや30cが主流になりつつある。
- 性能差: 太いタイヤは振動吸収性が高く、ロングライドでの疲労を大幅に軽減する。
- 選び方: レース志向なら25c、オールラウンドなら28c、ロングライドなら30c以上が目安。
- 注意点: フレームとホイールのクリアランス確認は必須。
筆者自身、ロングライドが苦手だった時期から、タイヤを太くし、快適性を重視するセッティングに変えたことで、600kmという未知の距離を走れるようになった。
機材の選択ひとつで、ロードバイクの楽しみ方は大きく広がる。
もしあなたが今、走行中の振動や疲労に悩んでいるなら、タイヤの太さをワンサイズ上げてみることを強くお勧めする。
たった数ミリの違いが、あなたのサイクリングライフを劇的に快適なものに変えてくれるはずだ。











